外国税額控除とは?計算方法と確定申告について解説!二重課税を防ぐために!

外国税額控除は、海外と日本の両方の税制を課税される「二重課税」を防ぐための制度です。外国証券に投資をしている個人の方や外国で事業を運営する法人が対象になります。この記事では制度の内容と二重課税の控除を受けられる人の条件、外国税額控除の計算方法や確定申告のやり方を解説します。

外国税額控除とは?計算方法と確定申告について解説!二重課税を防ぐために!

外国税額控除制度とは?

外国税額控除制度とは?

外国税額控除制度とは、海外で所得を得た場合に海外と自国の両方の税制に基づいて課税される「二重課税」を防ぐためのものです。

二重課税になっている場合に、確定申告で控除を受けることができます。外国で課税された外国所得税を日本の所得税額から控除します。控除額の計算方法や確定申告の方法は後述します。

外国税額控除制度の背景・目的

この制度が整備された背景や目的には、国によって採用している所得税の課税方法が異なることが挙げられます。所得税の課税方法は、国内外で生じたすべての所得に対して住んでいる国で課税される「居住地国課税」と、所得が発生した国で課税される「源泉地国課税」の2種類があります。

日本は「居住地国課税」を採用しているため、日本企業が海外支店を設立し、現地で利益を得た場合でも日本の所得税の課税対象となります。しかし、利益を得た海外の国が「源泉地国課税」を採用していれば、海外の国でも所得税を徴収されてしまいます。

このように、現地でも自国でも課税されてしまうと経済活動を妨げる要因となるため、是正策として外国税額控除制度が適用されるようになりました。

二重課税の控除を受けられる人の条件

二重課税の控除を受けられる人の条件

どのような条件を満たせばこの制度で控除が可能となるのでしょうか。個人、法人それぞれについて確認しておきましょう。

外国証券に投資をしている個人

個人で二重課税の控除を受ける場合は、日本に居住し外国株式・海外ETFを運用し配当所得を得ていることが考えられます。また外国の不動産の賃貸や売買によって収入を得た人も外国で源泉徴収を済ませているケースがあるでしょう。

【参照】国税庁「外国税額控除を受けられる方へ(PDF)」 詳しくはこちら

外国で所得を得た法人

外国で事業を展開している法人も外国税額控除制度の対象となります。本社が日本にあり外国に支店がある場合でも、海外支店において法人税を納付している場合は、その国で納付した法人税は控除の対象となります。

また日本法人が外国の子会社を有している場合は、外国税額控除制度の対象ではなく、子会社から受け取る配当の95%を益金不算入とすることになっています。

【参照】財務省「国際的な二重課税排除方式に関する資料」 詳しくはこちら

外国税額控除の基本的な計算方法

外国税額控除の基本的な計算方法

個人の外国税額控除では、「該当する年に納付する外国所得税額」と「外国税額控除限度額」のいずれか少ない額を、該当する年の所得税から控除できます。

控除限度額
=該当する年の所得税額×(該当する年の国外所得総額÷該当する年の総所得)

例えば個人事業者であるAさんの課税所得500万円のうち、海外で得た所得が100万円(海外の所得税率15%)であった場合を例に挙げて、外国税額控除の金額を算出してみます。

1.国内の所得税額
所得税率:20%(課税所得500万円の場合)
所得税の控除額:42万7,500円
所得税額:500万円×20%(所得税率)−42万7,500円(控除額)=57万2,500円

2.控除限度額
57万2,500円(所得税額)×(100万円÷500万円)=11万4,500円

3.海外所得税額
100万円×15%=15万円

4.比較
11万4,500円<15万円

出典 

よってこのケースの場合、所得税から控除できる外国税額控除の金額は11万4,500円となります。

【参照】国税庁「No.2260 所得税の税率」 詳しくはこちら

法人の場合も同様に、控除限度額の計算を行い、実際に納めた外国法人税額と比較します。

法人税の外国税額控除限度額の算出方法は、

当期の全世界所得金額に対する法人税額×(当期の調整国外所得金額÷当期の全世界所得金額)

です。
調整国外所得金額とは、純損失または雑損失の繰越控除や上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などの、各種の繰越控除に関する適用を受ける前の国外所得金額です。ただし国外所得金額が全世界所得金額の90%を超えている場合は、90%に相当する金額が国外所得金額とみなされます。

【引用】国税庁「内国法人の外国税額控除における国外所得金額(PDF)」 詳しくはこちら

海外でも営業活動を行っている法人B社の課税所得5億円のうち、海外で得た所得が1億円(海外の法人税額20%)であった場合を例に挙げて、外国税額控除の金額を算出してみます。

1.国内の法人税額
法人税率:23.2%(資本金1億円超の普通法人の場合)
法人税額:5億円×23.2%(法人税率)=1億1,600万円

2.控除限度額
1億1,600万円×(1億円÷5億円)=2,320万円

3.海外法人税額
1億円×20%=2,000万円

4.比較
2,320万円>2,000万円

出典 

法人の場合も、実際に納めた外国法人税と上記の式で求めた控除限度額のいずれか低い金額が外国税額控除となります。
よって2,000万円が外国税額控除の金額となります。

【参照】国税庁「No.5759 法人税の税率」 詳しくはこちら

限度額や繰り越しについて

限度額や繰り越しについて

外国所得額が多くなった場合には、所得税の税控除の限度額を超えることもあるでしょう。その場合、控除できなかった分については、住民税から控除されます。住民税の控除は、都道府県民税、市区町村民税の順に行われ、控除限度額を求める式は、以下の通りです。

都道府県民税の控除限度額=所得税の控除限度額の12%
市区町村民税の控除限度額=所得税の控除限度額の18%
※政令指定都市に住んでいる方は、道府県民税の控除限度額では6%、市町村民税の控除限度額では24%を、所得税の控除限度額に乗じて計算します。

またその年度内で外国税額控除の金額を所得税額等で控除しきれなかった場合は、その控除しきれなかった差額分の金額について、翌年以降3年間にわたり繰越が可能となります。

【参照】国税庁「外国税額控除を受けられる方へ(PDF)」 詳しくはこちら

外国所得税の範囲

外国所得税の範囲

ここでは、外国税額控除制度の対象とそうでないものについてまとめました。

外国所得税に含まれるもの

外国所得税に含まれるのは、「海外の所得や海外に持っている資産(不動産や外国株式など)から得た収入や所得に対して、その国から課された税金」です。
海外で所得を得てその国で所得に対して課税される税や、日本のように一定の所得に対して税率が上がるような超過所得税のことです。日本では収入から所得控除を引いた額を所得として税額が決まりますが、控除される前の収入に対する額を対象とした税もあります。

国税庁では、下記のように定められています。

1.超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課税される税

2.個人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税

3.個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他にこれに準ずるものを課税標準として課されるもの

4.個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税

出典 

外国所得税に含まれないもの

外国所得税に含まれないものの代表は、「最終的な税額が決まっていない税金」「罰金として徴収された税金(延滞税など)」や「複数の税率から選択できる税金の一定の部分」「所得税の延滞税のような所得に対してではない金額に課せられる税金」などです。
国税庁による定義は、以下のようになっています。

1.税を納付する人が、その税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求できる税

2.税を納付する人が、税の納付が猶予される期間を任意に定められる税

3.複数の税率の中から税を納付することとなる人と外国もしくはその地方公共団体又はこれらの者により税率を合意する権限を付与された者との合意により税率が決定された税のうち一定の部分

4.外国所得税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税制

出典 

【引用】国税庁「外国税額控除を受けられる方へ(PDF)」 詳しくはこちら

外国税額控除の確定申告方法

外国税額控除の確定申告方法

外国税額控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。必要な書類をそろえ、確定申告期間中に所轄の税務署へ提出しましょう。

外国税額控除に必要な書類

1.確定申告書
2.外国税額控除に関する明細書(居住者用)
3.外国所得税額を課されたことを証する書類
4.外国所得総額の計算に関する明細書
5.各年の控除限度額や納付した外国所得税を記載した書類

出典 

3や4は、取引先で発行される年間報告書で代替でき、5は繰越控除を利用する場合に必要になります。

明細書に記載する内容

外国税額控除に関する明細書(居住者用)に、控除税額を計算して申告するために必要な次の事項を記載します。

1.外国所得税額の内訳
外国税額控除の対象に該当する外国所得税額の内容を記入します。
所得を得た国名や所得の内容、源泉・申告の区分について記入したうえで、その国での課税標準(所得金額)及び外国所得税の金額を計算して記入します。

外国株式の配当については配当を受け取った際の源泉徴収票から内容を確認できるほか、証券会社の取引口座を開設している場合は、年間取引報告書から過去のデータを参照できます。

2.本年の雑所得の総収入金額に算入すべき金額の計算
前3年以内に控除限度超過額があった場合、または外国税額控除の適用を受けたうえで、7年以内にその納付することとなった外国所得税が減額を受けた場合は、その金額を記入します。

3.所得税及び復興特別所得税の控除限度額の計算
確定申告書で申告した所得税額及び、所得税に2.1%の税率を乗じて計算した復興特別所得税額を記入し、控除限度額を計算します。

4.外国所得税額の繰越控除余裕額または繰越控除限度超過額の計算の明細
繰越控除余裕額(外国で納付した税額が控除限度額を下回る場合の差額)または繰越控除限度超過額が発生した場合は、その金額を計算して記入します。

5.外国税額控除額等の計算
上記1~4で記入した内容を基に、外国税額控除等を計算し、金額を記入します。

なお実際の書類のフォーマットについては、国税庁のホームページで内容を確認できます。

【参照】国税庁「外国税額控除に関する明細書(居住者用)※PDF」詳しくはこちら

書類の提出方法と提出期限

外国税額控除を受ける場合、通常の確定申告と同様に手続きを行います。
毎年度の確定申告期間中(原則的には毎年2月16日から3月15日まで。還付時のみ毎年1月から可能)、確定申告の書類と外国税額控除に必要な書類を用意して所轄の税務署に提出・郵送するか、e-tax上で提出してください。

法人の外国税控除に関わる制度

法人の外国税控除に関わる制度

法人の場合、「タックス・ヘイブン」という法人税や所得税が全く課されない、または非常に低い税率となっている国に支店や子会社を有することがあります。
また開発途上国から企業誘致を受け、低い税率などの優遇を受けながら事業展開を行う法人も存在します。これらの法人の取り扱いについて紹介していきます。

外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)に係る外国税額控除

外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)は、法人税や所得税が課されないか、低い税率となっている租税回避地に支店や子会社を置く日本法人に対して、国内の親会社の所得とみなして課税する制度です。
適用されるにはいくつかの基準が設けられていますが、事業活動なくして得る受動的所得(利益や配当)についても本税制が適用されることがあります。

みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)

日本法人が開発途上国から企業誘致を受けて事業を展開すると税制優遇等を受けるケースが多くあります。しかし、日本の外国税額控除は基本的に「外国で実際に支払った税金」に適応されるため、「実際に支払っていない減税分の税金」は対象外となってしまいます。これでは外国で税制優遇を受けるほど日本で支払う税金が増えることになり、開発途上国の経済発展を支援するための税制優遇が意味をなさなくなります。

このような目的と税制のねじれが発生しないようにするために、減税された分についても源泉地国課税があったとみなし、外国税額控除制度を適用するのがみなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)です。

まとめ:二重課税されているなら還付を受けよう

外国税額控除制度とは、海外で所得を得た場合に海外と自国の両方の税制に基づいて課税される「二重課税」を防ぐためのものです。
国内の証券会社から外国株を購入し配当所得を得ている場合や、拠点は日本にありながらも海外で収入を得ている場合には、海外と自国の両方で所得税が課税されていることがあります。確定申告を行い、還付を受けるようにしましょう。

また法人の場合は、控除の対象となるか調べる必要があり、税制改正も頻繁に行われているため、専門家に相談したうえで申告することをおすすめします。

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