個人事業主でも考える必要がある?「消費税還付」とは

消費税は一定の要件に該当する場合、還付を受けることができます。消費税の還付を受けるための要件や計算方法、提出書類を確認しましょう。また、消費税の免税事業者や簡易課税選択事業者が消費税の還付を受けるにはどのような手続きが必要かを解説します。

個人事業主でも考える必要がある?「消費税還付」とは

消費税還付の要件は?

消費税還付の要件は?

個人事業者の場合、原則としてその年の2年前の消費税がかかる売上が1,000万円を超えていれば消費税を納める義務があります。1,000万円以下であれば免税事業者となります。

納める消費税は、原則的には売上にかかる消費税(預かった消費税)から仕入にかかる消費税(支払った消費税)を差し引いて計算します。これを「原則課税」といいます。

仕入にかかる消費税とは、商品の仕入れやモノの購入、サービスの提供を受けた際に支払った対価にかかる消費税です。

消費税が還付されるのは、「売上にかかる消費税<仕入にかかる消費税」となる場合です。売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を差し引いて、引ききれない金額がある場合には、確定申告をすることで還付されます。

■消費税が還付される場合
【例】売上 1,100(消費税10%、税込) → 売上に係る消費税 100
   仕入 2,200(消費税10%、税込) → 仕入に係る消費税 200

【還付される消費税の計算】
 売上に係る消費税 100 − 仕入に係る消費税 200 = △100
  →確定申告により引ききれなかった100が還付される

消費税が還付されるのは、具体的には次の3つのケースです。

1.赤字の場合

赤字の場合は、売上よりも仕入や経費のほうが多いため、消費税が還付されるケースに当てはまります。

ただし、給与や社会保険料、税金など消費税がかからない経費は売上にかかる消費税から差し引くことができません。事業全体では赤字であっても仕入にかかる消費税が少ないと消費税を納めなければならないこともありますので注意が必要です。

2.不動産の購入や高額の設備投資をした場合

不動産の購入や高額の設備投資をした場合には多額の消費税を支払うため、仕入にかかる消費税が売上にかかる消費税を上回るケースが多いです。

ただし、ここで注意すべきは、売上の内容が、消費税がかかる売上か、そうでない売上、つまり非課税かという点です。

例えば居住用アパートのみを営んでいる大家さんであれば、家賃収入は消費税が非課税の売上であるため、アパートの建築や修繕で消費税を支払っていたとしても消費税の還付を受けることはできません。

3.輸出売上が多い場合

消費税は国内での取引に課される税金であるため、輸出売上については消費税が免税になります。

しかし、その輸出売上をあげるために国内で行った仕入や輸送費などの経費については消費税を払っているため、仕入にかかる消費税が売上にかかる消費税を上回り、消費税が還付されます。

ただし、消費税の還付を受けることができるのは、「原則課税」である場合に限られます。
したがって、その年の2年前の消費税がかかる売上が1,000万円以下である免税事業者や簡易課税制度(後述)を選択している事業者は、消費税の還付を受けることはできません。

免税事業者でも還付を受ける方法がある

免税事業者が、不動産を購入するなど仕入にかかる消費税が多額に発生するため消費税の還付を受けたいと思った時にはどうしたらいいでしょうか?

答えは、あえて「課税事業者になることを選択する」ことです。

免税事業者が課税事業者になるためには、還付を受けたい年の前年12月31日までに税務署へ「課税事業者選択届出書」という書類を提出する必要があります。

■免税事業者が課税事業者になる場合

免税事業者が課税事業者になる場合

課税事業者を選択した事業者がまた免税事業者に戻る場合には、税務署へ「課税事業者選択不適用届出書」という書類を提出すれば、提出した翌年からは免税事業者になります。

ただし、免税事業者に戻るには次の期間の制限があるので気を付けましょう。

1.課税事業者になってから2年間は免税事業者に戻ることはできない
2.課税事業者になって2年以内に1つ100万円(税抜)以上の固定資産を購入した場合には、課税事業者になってから3年間は免税事業者へ戻ることはできない
3.原則課税である期間中に1,000万円以上(税抜)の棚卸資産または固定資産を購入した場合には、購入した年から3年間は免税事業者に戻ることはできない

消費税課税の申告方法

消費税課税の申告方法

消費税の還付を受けるための申告は、確定申告書と一緒に「消費税の還付申告に関する明細書」という書類を提出します。
この明細書には、還付申告になった理由や課税仕入の状況などを記載します。

原則課税と簡易課税

原則課税と簡易課税

消費税の計算方法は、原則課税のほか、「簡易課税」という方法もあります。

簡易課税とは、売上にかかる消費税から、売上にかかる消費税に営む事業の種類に応じた「みなし仕入率」を乗じた金額を差し引いて納税額を計算します。

みなし仕入率は、卸売業は90%、小売業は80%、製造業などは70%、サービス業などは50%、不動産業は40%、これらのどれにも当てはまらない業種(飲食業など)は60%と決まっています。

簡易課税を選択するには、次の2つに当てはまる必要があります。

1.その年の2年前の消費税がかかる売上が5,000万円以下であること。
2.簡易課税の適用を受けようとする年の前年12月31日までに、税務署へ「簡易課税制度選択届出書」を提出すること。

簡易課税を選択している場合には消費税の還付を受けることはできず、還付を受けるためには簡易課税の選択をやめて原則課税にする必要があります。

■原則課税と簡易課税

【例1 簡易課税が有利なケース(小売業の場合)】
 売上 1,100(消費税10%、税込) → 売上に係る消費税 100
仕入  550(消費税10%、税込) → 仕入に係る消費税  50
小売業の場合 みなし仕入率80%

・原則の納税額
売上に係る消費税 100 − 仕入に係る消費税 50 = 50
・簡易の納税額
売上に係る消費税 100 − 売上に係る消費税 100 ×みなし仕入率80%= 20
=簡易課税のほうが有利

【例2 原則課税が有利なケース(小売業の場合)】
 売上 1,100(消費税10%、税込) → 売上に係る消費税 100
仕入 2,200(消費税10%、税込) → 仕入に係る消費税 200
小売業の場合 みなし仕入率80%

・原則の納税額
売上に係る消費税 100 − 仕入に係る消費税 200 = △100 ← 還付
・簡易の納税額
売上に係る消費税 100 − 売上に係る消費税 100 ×みなし仕入率 80%= 20 ← 納税

=原則課税のほうが有利

簡易課税の選択をやめるためには、簡易課税の適用をやめようとする年の前年12月31日までに、税務署へ「簡易課税制度選択不適用届出書」という書類を提出する必要があります。

■簡易課税を選択している事業者が原則課税になる場合

ただし、簡易課税の選択をやめた事業者がまた簡易課税に戻る場合、課税事業者になった免税事業者がまた免税事業者に戻るときと同様に期間に制限があるので注意が必要です。

まとめ

消費税を納めすぎていた場合、原則課税であれば消費税の還付を受けることができます。免税事業者や簡易課税選択事業者が消費税の還付を受けるため原則課税になる場合には、原則課税となる期間のトータルの納税シミュレーションをし、原則課税にならない場合と比較して有利かどうかを検討しましょう。

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