ボーナスは出ない?意外と知らない「年棒制」のメリット・デメリットや月給制との違いなど

求人広告などで目にする機会が増えてきた「年俸制」。一般的な給与体系である月給制とは、どのような違いがあるのでしょうか?今回は年俸制の基本的な仕組みと、メリットやデメリット、年俸制で働く場合の注意点について解説します。

ボーナスは出ない?意外と知らない「年棒制」のメリット・デメリットや月給制との違いなど

そもそも年俸制とはどういう仕組み?

そもそも年俸制とはどういう仕組み?

日本企業で広く普及している月給制では、社員の年齢や勤続年数に応じて基本給が決められ、そこに様々な手当を加算したものが給与として毎月支払われます。さらにボーナス制度を導入している企業では、会社の業績や社員本人の成績に応じたボーナスが支給され、これと12か月分の給与をあわせたものが年収となります。しかしボーナスの有無や額は事前にはわからないため、月給制の場合、その年が終わって月給とボーナスをすべて受け取った後でしか、正確な年収がいくらになるのかは把握できません。

一方、年俸制は労働者に支給する基本的な賃金を本人の能力や実績などを基に予め決定し、1 年分がまとめて提示される制度です。1人ひとりの能力や業績が年収にダイレクトに反映される年俸制は、実力主義・成果主義が重視される欧米の企業では広く普及しており、最近では日本でも採用する企業が増えています。

年俸制にはいくつか類型があり、給与の支給方法には事前に決められた年俸額を12分割して毎月1度支給する方法、16分割して4か月分は春夏のボーナスとして支給する方法、年俸を「基本年俸」と「業績年俸」の2本立てにしておき、業績年俸の部分はその年の業績に基づいて調整できるようにする方法などがあります。年棒制の企業への就職・転職を考える際には、どのような支払い方法が採用されているのかを確認するようにしましょう。ちなみに、日本では労働基準法で「賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められているため、年棒制の場合も1年分の給与を全額まとめて支給することはできません。

年俸制を採用する会社はどのくらいある?

年俸制を採用する会社はどのくらいある?

では、実際には年棒制を採用している企業は、どのくらいあるのでしょうか?
厚生労働省が行った「平成24年就労条件総合調査※」によると、年棒制を導入している企業は13.3%。企業規模別に見てみると、従業員が1000人以上の企業で年棒制を採用している企業は全体の32.6%、300~999人の企業では24.5%、100人~299人の企業は18.4%、30人~99人の企業は10.4%と、規模の大きい企業ほど年棒制の採用率が高いことがわかります。

業種別にみると、年俸制を採用している割合が最も高いのは、情報通信業で33.7%、次いで学術研究、専門・技術サービス業が30.9%、金融業、保険業が25.3% でした。一般的には専門性が高く、個々の社員の実力や成果が明確に評価しやすい職種で年俸制の導入が進んでいると言われています。

日本企業ではこれまで特に職務内容や勤務地などを限定せずに新卒一括採用した社員を、社内で異動や転勤を繰り返しながら長期間をかけて育成していく「メンバーシップ型採用」が一般的でしたが、近年はビジネスのグローバル化にともなって、個々の社員の職務内容や勤務地、年俸を明確にした上で雇用する「ジョブ型採用」に注目する企業が増えています。今後、ジョブ型採用の普及が進めば、日本でも年棒制を採用する企業が増えていくものと考えられます。

※厚生労働省「平成24年就労条件総合調査」 詳しくはこちら

年俸制のメリット・デメリットは?

年俸制のメリット・デメリットは?

では、年棒制には月給制など他の給与制度に比べて、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?企業側・社員側それぞれの立場から年棒制の主なメリットとデメリットをみていきましょう。

メリット

① 企業側のメリット
・事前に年俸を決めてから雇用するため、年間の人件費の見通しがつきやすく経営計画が立てやすい
・人材を育成する時間と費用をかけずに、あらかじめ高い専門性をもつ人材を確保しやすい
・実績や成果を明確に年俸に反映させることで、社員のモチベーションを維持しやすくなる

② 社員側のメリット
・年齢や勤続年数に関係なく、実績を上げれば給与が上がる
・努力や実績が年俸UPという目に見える形で評価されるので、仕事へのモチベーションが上がる
・年収が事前に把握できるのでマネープランを立てやすい

デメリット

① 企業側のデメリット
・業績が悪化した場合や社員の成績が伸びない場合も、年度中は年俸を変更できない
・残業代や交通費などをあいまいなまま契約すると、社員とのトラブルが生じやすくなる
・個々の社員の実績や成果を把握して年俸に反映させねばならないため、人事考課に時間がかかる

② 社員側のデメリット
・思うような実績が挙げられなかった場合は、翌年の年俸が下がってしまう可能性がある
・常に実績や成果を出し続けないと昇給できないため、プレッシャーが大きい
・実績を挙げてもその年の給与には反映されない

いわゆる年功序列型の組織では、個々の社員が実績をあげても、それが直接給与に反映されることは多くありません。熱心に働いて成果を出している自分よりも、成果を出していない先輩社員や上司のほうが給与が高いことに嫌気がさしてしまう人も少なくないでしょう。その点、年棒制では実績や成果が給与に反映されるので、年齢や勤続年数に関わらず、努力次第で高給を狙うことができるというメリットがあります。ただし、常に成果を出し続けないと昇給が望めないため、そのプレッシャーからストレスを抱え込んでしまったり、過労に陥ってしまったりするおそれもあります。年棒制で働くことを検討する際には、体力・精神力の両面で自分に適性があるかどうかも含めて、慎重に判断するようにしてください。

年俸制で働く場合は、残業代に注意点

年俸制で働く場合は、残業代に注意点

さらに、年棒制で働く場合には契約内容を事前にしっかり把握することが大切です。特に年棒制で働き始めたあとにトラブルになりやすいのが、残業代の取扱いです。
「年俸制は1年間の賃金が決められているので、残業しても残業代は出ない」と誤解されていますが、実はそうとも限りません。というのも労働基準法では企業に対して、年俸制を導入した場合でも、実際の労働時間が一週又は一日の労働時間の法定労働時間(1週間の労働時間:40時間、1日の労働時間:8時間)を超えれば、原則として割増賃金を支払わなければならないことを定めているからです。したがって、年俸制の場合も、原則としては上記の法定労働時間を超えた場合は割増賃金として残業代を支払わねばならないことになります。

ただし、年俸を決める際の契約書に、年俸に残業代を含むことが明確に記載されており、かつ給与の金額と残業分の金額が明確に書き分けられている場合は、残業代は支払われません。しかし、その場合も契約上年俸の一部とされている残業代が、実際の残業に対する賃金よりも少ないことが証明できれば、その差額を残業代として求めることは可能です。年棒制で働いている場合でも、残業代を請求する場合に備えて、残業をしたことを証明するもの(タイムカードや業務報告書、パソコンのログイン・ログアウトの記録など)を残しておくようにしましょう。

まとめ

まとめ

能力や実績に応じて年間の給与が決定され、事前に提示される年俸制度。年齢や勤続年数に関わらず正当に業績が評価されるのでモチベーションを落とさずに前向きな気持ちで仕事に取り組むことができるだけでなく、事前に年収を把握できるのでマネープランニングが立てやすいというメリットもあります。ただし、思うように実績をあげることができないと昇給が望めず、場合によっては年俸が減ってしまうというデメリットも。年棒制での就職を考えるにあたっては、事前に契約内容をよく確認し、自分が精神的・体力的に年棒制での仕事に向いているかどうかを総合的に判断するようにしましょう。

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