【特集セカンドライフ】第4回 人は何度でも学び直すことができる、「新しい自分」を生きることができる

「特集 セカンドライフ」は、経営者・リーダー・役員など会社で活躍するさまざまな人のセカンドライフ(第二の人生)を聞く特集企画。第4回は株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長でサンリオピューロランド館長を務める小巻亜矢さんにお話を伺いました。

【特集セカンドライフ】第4回 人は何度でも学び直すことができる、「新しい自分」を生きることができる

大学卒業後に入社した株式会社サンリオを結婚退職後、次男の事故死、離婚、再就職、がんとの闘病など波乱万丈の人生を歩み続ける小巻社長。還暦を迎えた今、思い描くセカンドライフ、そして次世代に伝えたいメッセージとは。

東京・赤坂生まれ。少女時代に感じた「理不尽」が原点

―2019年に株式会社サンリオエンターテイメントの代表取締役社長に就任、日本を代表する女性経営者として活躍されています。サンリオは主に子供たちに夢を与えるビジネスを展開されていますが、小巻さんご自身はどんな子供だったのでしょうか?

小巻亜矢さん(以下、小巻):ちょっと大人びた子供だったと思います。生まれ育ったのが東京・赤坂、中高時代は六本木にある女子校に通っていましたので、一般的な子供よりは大人の世界を垣間見る機会が多かったからかもしれません。

実家はごく普通のサラリーマン家庭で厳格な父と専業主婦の母、そして21歳で夭逝してしまった姉との4人家族でした。小学校時代はとにかくやんちゃで、負けず嫌いで正義感の塊、チャレンジ精神旺盛……、あ、今と同じですね(笑)。当時は父が地元の少年野球チームの監督をしていた関係で、私も男の子たちに混じって一生懸命野球をやっていました。でも、あるとき友達に「いくら野球をやっても女はプロ野球選手にはなれないんだよ」と言われて、すごくショックを受けてしまいました。男の子と同じぐらい練習をして、実力でも負けていない。でも、「女だから」という理由でプロ野球選手にはなれないだなんて、そんなの理不尽だ!と思いました。

考えてみれば、当時は「女だから」「女のくせに」というフレーズがまだごく当たり前に使われていた時代。私の母も本当は社会に出て働きたかったようで、本人も常々「私は仕事ができるタイプの人間だと思う」と話していましたが、父は「女性は家庭を守るべき」という主義を貫きました。そんな理不尽に腹を立てていたからでしょうか、小学校の卒業文集には「女性を守る仕事がしたい」と書いたのを覚えています。今にして思えば、この理不尽をどうにかしたいという想いはずっと私の心の奥にあって、私を今の仕事に導いてくれたのかもしれません。

父からもたくさんのことを教わりました。1970年代~80年代の日本はまだまだ経済が右肩上がりで、どこかふわふわと浮かれたような雰囲気でした。普通の女の子がスカウトされて芸能人になって……というような夢のような出来事も身近にあるような時代だったのですが、父はそういう話が大嫌い。「人は自分で努力して堅実に生きていくべきだ」というのが持論で、私たちにも口を酸っぱくして言っていましたね。

その影響か、私は中学受験の面接前のアンケートで、「お金とは(      )だ」の(      )を埋めなくてはならなかったときに、「お金とは(有りすぎると人間をダメにするもの)だ」と回答したんです(笑)。面接の先生方も笑っていらっしゃいましたが、「お金は必要なものだけど、努力に見合う以上のお金を手に入れると人はダメになる」という考え方は、今も変わっていません。このあたり、堅実で真面目だった父の影響だと思います。

次男の死が導いてくれた、コーチングとの出会い

―大学卒業後はサンリオに入社されました。結婚退職までの間はどんな業務を担当されましたか?

小巻:大学は法学部に進みましたが、特にキャリア志向が強かったわけではなく、学生時代は好きなケーキ作りに没頭したり、子供が好きだから教師や保母さんもいいな……などと思ったりして、あまり真剣に自分の将来を考えていませんでした。サンリオに入社したのは、サンリオの理念に深く共感したからでした。実際、サンリオでの仕事は予想以上に楽しく、配属先のサンリオギフトゲート(サンリオ商品を販売するショップ)ではお客様の笑顔とかわいいキャラクターたちに囲まれて充実した毎日を送ることができました。

その後、結婚を機に約1年半で退職。3人の子供を授かって、しばらくは家事と育児に奮闘する日々が続きました。しかし、穏やかだった日々は、当時2歳だった次男を事故で亡くしたことを機に終わりを告げ、離婚、再就職、働きながらの子育て……と、私自身予想だにしなかった波乱万丈の毎日が始まったのです。

―再就職されて、どんな気付きがありましたか?

小巻:再就職先は化粧品関係の会社で、女性社員の多い会社でした。そこで彼女たちの話を聞いているうちに、女性が幸せに生きるためには「経済的自立」と「精神的自立」の両方が欠かせないことを実感するようになりました。彼女たちにもそれに気づいてほしくて、自分なりにいろいろなアドバイスをしたのですが、その内容は所詮、私個人の世界観に基づいたものに過ぎなかったので、あまり効果はありませんでした。

実は、同じ頃、子供たちとの関係にも少し悩んでいました。子供に良かれと思って「~しなさい」と指示するばかりで、子供が本当に必要なことが何なのかわかっていなかったのです。職場の女性たちに対しても子供たちに対しても、自分の答えを押し付けるだけ。相手の心と対話できていなかったために、相手が本当に何を欲しているのかを理解できない自分のふがいなさを痛感する出来事が続きました。そもそも私自身も、次男の死以来ずっと心が閉じてしまい、自分自身の「心」と対話ができていなかったのです。

そんな時に出会ったのが、コーチングでした。コーチングの基本的な考え方は「答えは、その人の中にある」、つまり「その人の心と向き合い対話することによって、相手の悩みや不安に対する答えを引き出そう」というもの。ぜひ私も「答え」を見つけたいと一念発起し、45歳からコーチングの勉強をはじめました。そして、コーチングを3年半学び自分自身と向き合ったことで、大げさかもしれませんが、私は新しい自分に生まれ変わることができたのです。

学び直すと、また新しい挑戦をしたくなる

―コーチングを学んだことで、仕事の面ではどのような変化がありましたか?

小巻:自分のしたいことが明確になりました。当時は化粧品会社にいたのですが、私がしたいのは、女性の肌の不調を治すことではなく、メンタルの不調を治すことだと気づいたのです。そこで古巣のサンリオで企業内ベンチャー「Nal」を立ち上げ、女性の支援に取り組むことになりました。

そもそもサンリオは女性のお客様に支えられて成長を遂げてきた会社ですから、女性に恩返しをする意味でも、女性を元気にするための組織が社内にあっても良いのではないかと提案し、それを受け入れていただいたのです。Nalを立ち上げたことによって、遠回りしましたが、やっと子供のころに夢見た「女性を守る仕事」のスタートラインに立つことができたのかもしれません。サンリオエンターテイメントの仕事に専念するために、Nalはいったん解散しましたが、今でもNPO法人ハロードリーム実行委員会、子宮頸がんの予防啓発プロジェクトハロースマイル、一般社団法人SDGsプラットフォームなどの活動を通じて、女性支援に取り組んでいます。

次の目標は海外留学。還暦を過ぎても、学び続ける人生を送りたい

―その後、50代で東京大学の大学院に進学したり、サンリオピューロランドの館長に就任するなど、次々に新たな挑戦をされています。その原動力は何ですか?

小巻:原動力は、あえて言葉にするとすれば「無知の知」でしょうか。何か新しいことに挑戦する度に必ず「え、私ってこんなことも知らないの、できないの!?」と思い知らされます。つまり、自分がまだまだ未熟で未完成であることに気付かされるのです。そうしたら、その足りないところ、未熟なところを学びたいと思ってしまう……。コーチングを学んで以来、この繰り返しで、いろいろなことに挑戦し、学び直しをしてきました。もっと知りたい、いろんな景色を見たいという気持ちが、私をここまで連れてきてくれたのだと思っています。

―2019年で還暦を迎えられました。セカンドライフについては、どう考えていますか?

小巻:正直言って、まだ自分のセカンドライフを思い浮かべたことはないですね。一般的なセカンドライフという言葉には、「猫を膝に乗せてのんびり日向ぼっこ……」みたいなイメージをもっていますが、今のところ、自分には程遠いなあと思っています。先ほども申し上げたとおり、私にはまだまだ挑戦してみたいこと、学びたいことがたくさんありますし、働くことが大好きなので、体力が許す限り、何歳になっても誰かの役に立つ仕事をしていたいですね。その意味で私にいわゆる「セカンドライフ」はないかもしれませんが、これから先も学び続けながら、新しいドアを開け続ける……そんな人生を歩んでいきたいですね。
ただ、セカンドライフといっても、たとえば定年や還暦を機に、突然まったく新しい人生が始まるわけではないですよね。明日からの人生は、あくまでも今日までの人生の延長線上にあるもの。だから、これから先も充実した人生を送りたいのであれば、結局は今の生活を丁寧に、味わいながら、自分で納得しながら生きていくことがいいのでは、と思います。

今、一番挑戦してみたいことは、海外留学です。今後しばらくは今の仕事に注力したいので、すぐに実現することは難しいですが、一段落したら短期でも良いので一度は海外で学んでみたいと思っています。もちろん、留学がゴールではありません。留学したらまた次の目標がみつかって、挑戦したいことが出てくるはず。いつでも新しいことに挑戦できる自分であるために、最近は特に健康管理に気をつかっていますね。毎日、筋トレもやっています!
よく、「何歳になっても挑戦し続けるなんてすごいですね」と言われるのですが、挑戦に年齢は関係ないですよね。実は年長になって責任ある立場になった人であればあるほど、新たな挑戦をしたほうが良いんじゃないかなと思うんです。というのも年齢を重ねて役職が付いたりすると、どうしても謙虚さが失われがちになってしまうからです。でも新しいことを始めたら、誰もがまた1年生からの再スタートです。できなくて恥をかくことも多いけど、ワクワクしたりドキドキしたりすることも多くて、心が活発に動くようになります。いわば、心のアンチエイジングです。成長しながらアンチエイジングできるなんて、最高ですよね。

次世代を生きる人たちに伝えたい2つのこと

―2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選出されるなど、マスコミでも大きく取り上げられ注目を集める機会が増えました。どのように受け止めていらっしゃいますか?

小巻:当惑している……というのが正直なところです。私はただ目の前の仕事や学びに取り組んできただけですから、こんなにいろいろな媒体で取り上げていただいていることに驚いています。でも、最近では、これも自分に与えられた「役目」なのかなと思えるようになりました。もし、私の話を聞いて、誰かが前向きな気持ちになって新しい挑戦をしてくれたら嬉しいですし、私の経験が誰かの悩みや不安を和らげるのに役に立つのならぜひ活用してほしいと思っています。
といっても、私から次世代を生きる皆さんにアドバイスできることはあまりありませんが、次の2つのことをお伝えしたいです。

1つ目は、何が起きてもその出来事は「ギフト」だということ。
悲しいことや辛いことが起きたときに、ただ嘆いているだけでなく、「この出来事は私に何を教えてくれようとしているのだろうか?」という観点で、その出来事を見つめ直してみるのです。そうすると、悲しい・辛いと思っていた出来事の中に、思いも寄らない意義を見出すことができます。すべての出来事は天から自分へのギフトだと思うようにすれば、大抵のことは乗り越えられるのでは、と思います。

もう1つは、「ありがとう」を数えること。
誰にでも嫌いな人や苦手な人っていますよね。いつも意地悪をしてくる人、嫌なことを言ってくる人もいますよね。でも、そういう人たちのことについて批判したり悪口を言ったりしているときの、自分の顔を想像してみてください。きっと、良い顔じゃないはずです。嫌いな人のために、自分が醜い表情になるなんて悔しいと思いませんか。だから、私は嫌なことがあったら、その原因を作った人に無理にでも心の中で「ありがとう」と言うようにしているんです。そして、できたら寝る前に1日の「ありがとう」を紙に書き出してみます。
例えば「私の悪口を言ってくれてありがとう。おかげで、悪口を言われる原因に気付くことができました」という風に。そうしたら、心の中のもやもやが少しずつ晴れますし、何より、自分が良い顔でいられます。一日の最後に「ありがとう」を数えて、晴れやかな顔で一日を終えましょう。すべての人に素直に「ありがとう」が言えるようになれば、きっと今よりも穏やかな気持ちで苦手な人たちと付き合えるようになるはずです。

新型コロナウイルスの影響で、ビジネスの面でも2020年は挑戦の年となりました。館長を務めているサンリオピューロランドも約半年間の休業を余儀なくされ、私も一時は「社員たちの人生を背負っているのに、どうしたらいいのだろう」と眠れぬ夜が続き、思い悩みました。しかし、今回の経験も多くのことを示唆してくれる「ギフト」だと思い直しました。

そもそも、私ごときが社員の一生を守ってあげようなんて、おこがましい。私の役割は、彼らが成長できる場を、挑戦できるチャンスを用意し続けること。釣った魚を分配し続けることではなく、魚の釣り方、漁場の見つけ方を自ら体得してもらうことです。そう思い至ったことで、ぐっと気持ちが楽になり、自分のすべきことが見えてきました。
これから、社員がますます実力を発揮して成長できる機会を作っていきます。そして、一人ひとりの社員の力でサンリオエンターテイメントをもっと良い会社にしていきます。もちろん、私自身もそのメンバーの一人。まだまだ新たな挑戦を続け、新しい自分に出会う旅を続けたいと思っています。

※この記事は2020年8月に行った取材をもとに作成しております。

今回お話を聞いた人

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長
サンリオピューロランド館長
小巻 亜矢さん

【小巻 亜矢氏 プロフィール】
1959年、東京都生まれ。1982年成城大学法学部卒業後、サンリオに入社。サンリオギフトゲートのスタッフを経て結婚退職。離婚後に化粧品関係の仕事で復職し、コーチングを学び始める。2008年企業内起業で女性支援のための株式会社Nal、NPO法人ハロードリーム実行委員会を設立。2010年子宮頸がん予防啓発プロジェクト「ハロースマイル(Hellosmile)」設立。2013年に東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。2014年株式会社サンリオエンターテイメント顧問に就任。2016年サンリオピューロランド館長に就任。2019年から株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長を務める。著書に「逆境に克つ! サンリオピューロランドを復活させた25の思考」(2019年、ワニブックス)、「サンリオピューロランドの魔法の朝礼」(2019年、総合法令出版)など。

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