高齢者の運転は危険?運転免許を返納する理由やメリットを考えよう
日本全国で高齢者ドライバーによる死傷事故が多発しており、運転免許の自主返納をすることで、防げる事故があります。今回は、高齢者ドライバーが運転免許の自主返納する理由やメリット、手続きについて解説します。賠償責任は、家族が負うことになるかもしれないので、運転免許の自主返納について話し合っておきましょう。

高齢者の運転は危険?!

近年、重大な交通事故がよく報道されており、高齢者の事故が多い印象を受けます。実際のところ、高齢者の事故数が多いことがデータからも分かっています。
警視庁交通局が令和3年に発表した「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数の推移」から、令和2年度の年齢層別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を抜粋すると、以下のようになります。
年齢層 | 死亡事故件数 |
---|---|
16~19歳 | 11.47 |
20~24歳 | 3.99 |
25~29歳 | 2.37 |
30~34歳 | 2.22 |
35~39歳 | 2.05 |
40~44歳 | 1.99 |
45~49歳 | 2.67 |
50~54歳 | 2.82 |
55~59歳 | 2.55 |
60~64歳 | 2.86 |
65~69歳 | 2.85 |
70~74歳 | 2.93 |
75~79歳 | 4.11 |
80~84歳 | 6.48 |
85歳以上 | 11.37 |
データを見ても、75歳以上から死亡事故の件数が増えていることが分かります。高齢社会で歳を取ってもハンドルを握る人が多い中、事故を減らすための対策を講じることが必要だといえるでしょう。
【参照】警視庁交通局「令和2年の交通死亡事故発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」詳しくはこちら
高齢者ドライバーが事故を起こす原因

初心者ならまだしも、運転に慣れているはずの高齢者ドライバーが、なぜ、歩行者の見落としやブレーキの踏み間違いなどの初歩的なミスを犯してしまうのでしょうか。
①視力の低下
ドライバーにとって特に重要なのは動体視力ですが、この視力は車の速度を上げるほど低下するのはもちろん、歳を取るほど低下します。加齢によって暗がりへの順応力も低下し、トンネル内に入ってから暗闇に目が慣れるまでに時間がかかるようになります。
②視野の狭まり
正常な目であれば、片方の目で左右160度ほどの視野を持っているとされています。ところが、高齢になると、緑内障などの目の病気などにより視野が狭まることがあります。特に、交差点を右折するときに対向車や歩行者を見落とすなどの事故を起こしかねません。
【参考】日本眼科医会「視覚障害と自動車運転(PDF)」 詳しくはこちら
③反応力の低下
例えば、急に子供が車道に飛び出してきたら、それを認知して「ブレーキを踏む」「ハンドルでかわす」のどちらかがいいかを咄嗟に判断し、行動に移さなければなりません。こうした反応力は、歳を取るほど低下します。そして、ブレーキを踏んだつもりなのに間違えてアクセルを踏んでしまうケースが少なくありません。
④運転への過度の自信
MS&ADインターリスク総研(株)の調査によると、運転に自信のある人の割合は、20代から60代にかけて減っていくものの、60代から一転して増えていきます。
反応力に優れた20代の若者が約49%なのに対し、70~74歳が約61%、75~79歳が約67%、そして80歳以上ではなんと72%。その自信を支えるのは、加齢による視力の低下などを考慮しない長年の運転経験です。
しかし、今まで安全運転を続けてきたという自信は、これからの無事故を保証するものではありません。
【参考】MS&ADインターリスク総研(株)「高齢者運転事故と防止対策」 詳しくはこちら
運転する高齢者のための制度

高齢者ドライバーのためには、さまざまなサポート制度が設けられています。周囲の理解を求めるためのマークや、自身の認知機能を測る検査など代表的なものを3つご紹介します。
高齢者マーク
高齢者マークの正式名称は「高齢運転者標章」といいます。高齢者マークには黄色と橙色の涙のような形をした「もみじマーク(旧)」と、4色の四つ葉がデザインされた「四つ葉マーク(新)」の2種類があります。
現在、70歳以上のドライバーは高齢者マークつけることは努力義務とされています。以前は75歳以上のドライバーは高齢者マークをつけることが義務化されていましたが、現在は75歳以上でも努力義務とされており、罰則はありません。
ただ、高齢者マークを貼っていると、周囲の車に配慮の義務が生じますので、無理な幅寄せや割り込みをされないためにも、貼ることをおすすめします。
高齢者講習
高齢者講習とは、運転免許証の更新期間満了時に70歳以上の人が受ける講習のことです。道路交通法で義務付けられている講習ですので、受講しなければ免許の更新はできません。免許更新の案内ハガキで対象者であることが明記されていた場合、事前に予約を取り、教習所や運転免許試験場で講習を受ける必要があります。
優良運転者講習や一般運転者講習とは異なり、座学講義だけでなく運転適性検査、実車による指導なども行われます。所要時間は約2時間で、試験ではないので合否判定はありません。
しかし、2022年5月からは一定の違反歴がある高齢者に限り、合否判定のある実車試験が実施されており、更新期間満了日までに合格しなければ免許を更新できません。また、75歳以上の高齢者は、高齢者講習の前に認知機能検査も義務付けられています。
認知機能検査
認知機能検査とは、75歳以上のドライバーが3年に1度の免許更新時に受けることを義務付けられている検査です。また、信号無視など一定の違反をした75歳以上の運転者も、免許の更新時とは別に検査を受ける必要があります。違反の通知を受け取ってから1ヶ月以内に検査を受けなければ、免許停止や取り消しの対象になるので注意が必要です。
検査は30分程度で、「時間の見当識」と「手がかり再生」の2種類で、記憶力や判断力を測定します。判定は100点満点で、36点以上は認知症のおそれがないとして、高齢者講習後に免許を更新できます。
一方、36点未満の場合は認知症のおそれがあるとの判定になり、専門の医師の診断が必要になります。専門の医師から認知症でないと診断されれば高齢者講習を受けて免許を更新できますが、認知症と診断された場合は免許の停止や取り消しの対象になります。

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運転免許自主返納という選択

たとえ認知機能検査で合格しても、日頃の運転に不安を感じた場合は、不幸な事故を防ぐために運転免許の自主返納という選択肢もあります。ここからは自主返納のメリットや詳しい手続きについて解説します。
運転免許自主返納のメリット
運転免許証を身分証明書として使っている人は、返納すると身分を証明するものがなくなるという不安があるかもしれません。しかし、返納後5年以内であれば、「運転経歴証明書」の交付を申請することが可能です。
これは返納日からさかのぼって5年間の運転の経歴を証明するもので、運転免許証の代わりに公的な身分証明書として使えます。交付手数料はかかりますが、運転経歴証明書を提示すれば各自治体が提供するさまざまな特典も受けられるようになります。
特典の代表的なものはバスや電車、タクシーなど公共交通機関の運賃割引、商品券の贈呈、デパートやスーパーなどの無料配送や配送料の割引、飲食店やホテル、美術館や温泉、レジャー施設などの利用料割引などが挙げられます。また眼鏡や補聴器、電動車いすや遺影の撮影料の割引、遺言や相続の初回相談無料など、老後や死後に必要なものの特典も受けられます。
自治体により利用できる特典は異なるため、詳しくは各自治体のホームページか、各県の警察のホームページで確認するとよいでしょう。
運転免許自主返納の手続き
免許の返納手続きは、警察署や各運転免許センターで行います。本人が出向くのが難しい場合は、委任状があれば代理人による申請も可能です(代理範囲限定の場合あり)。手続きに必要なものは、有効期間内の運転免許証です。自治体によっては印鑑が必要な場合もあるので、事前に各自治体のホームページなどを見て、持ち物を確認しておくとよいでしょう。
運転免許の返納と同時に運転経歴書の申請を行う場合は、6ヶ月以内に撮影した写真(縦3cm×横2.4cm)と交付料1,100円も持参してください。また、運転免許の返納とは別の日に運転経歴書の申請を行う場合は、住民票や健康保険証など、氏名と住所、生年月日が確認できるものが必要になります。
まとめ

高齢者の交通事故は他人事ではありません。自分では運転に自信があるつもりでも、いつの間にか身体能力や判断能力が低下している場合もあります。
もし日頃の運転で不安を感じるようになったら、免許の自主返納の必要性やメリットを考えてみましょう。身分証明書がなくなる、移動手段がなくなるといった不安に対しては、運転経歴証明書の交付や公共交通機関の割引など、代替手段が準備されています。
安全を第一に考えて、ご家族とも一度よく話し合ってみましょう。

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