保佐人とは?成年後見人との違いや被保佐人の判断能力レベルを解説

成年後見制度において、保佐人は、判断能力が低下した被保佐人が法律行為を行う支援をする人です。今回は、保佐人の概要、成年後見人との違いを解説します。被保佐人の判断能力のレベルや成年後見制度を利用する流れも参考にしてみてください。

保佐人とは?成年後見人との違いや被保佐人の判断能力レベルを解説

保佐人・被保佐人とは

保佐人・被保佐人とは

保佐人とは、成年後見制度において、精神上の障害や認知症により判断能力が相当低下してしまった(著しく不十分となった)人を保護する人です。保護される本人のことを被保佐人といいます。

成年後見制度では、保佐人と同様の役割の人を成年後見人、補助人と呼ぶ場合があります。本人の判断能力の程度によって呼び方と与えられる権限が異なります。
本人の判断能力が最も欠如している場合は、成年後見人となり次に保佐人、補助人という役割になります。
基本的には、本人に代わって財産の管理を行ったり、重要な手続きの支援を行うことで、被保佐人が詐欺の被害にあったり、財産を浪費してしまったりすることを防ぎます。

成年後見人と保佐人の違い

成年後見人と保佐人の違いは、成年被後見人と被保佐人の判断能力の程度の違いです。
精神上の障害や認知症により「常に判断能力を欠いている」と認定された場合は、成年後見人が成年被後見人に代わって、日常的な行為以外の法律行為を代理することができます。

法律行為が不可能である成年被後見人に対して、被保佐人は自分の意思で法律的な行為が可能であると判断されます。そのため、保佐人には代理権は与えられません。

その代わりに保佐人は、被保佐人が自分の意思で行った法律的な行為に同意する同意権が与えられています。保佐人は、被保佐人にとって有益な行為であれば同意しますが、保佐人の同意がない行為については取り消して被保佐人の財産を保護することができます。

保佐人が被保佐人に対してできること

保佐人は被保佐人が行う法律的な行為について、「同意権」、「取消権」、「代理権」という3つの権利によって、被保佐人を保護することができます。
それぞれの権利の内容と権利が及ぶ範囲は次の通りです。

重要な財産に関する行為への同意権

保佐人は、被保佐人が重要な財産に関する取引を行う際、その内容について検討し、被保佐人にとって有益な場合は同意をします。これを同意権といいます。
保佐人の同意が必要である行為には、民法13条1項で定められた以下のようなものがあります。
・金銭の貸借、保証人になる行為
・不動産の売買、賃貸借
・訴訟の提起
・財産の贈与
・遺産の分割、相続の承認・放棄
・建物の新築や大規模な改築
・長期の賃貸借
など

保佐人の同意なくして行った行為の取消権

被保佐人が、保佐人の同意なく保佐人の同意が必要である行為(同意権の及ぶ範囲の行為・民法13条1項)を行った場合、後からその行為を取り消すことができます。これを取消権といいます。

不動産の売買であればその売買契約は取り消され、金銭の貸借であればその貸借契約自体は無効になります。

ただし、被保佐人による日常の買い物などといった同意権の範囲外の被保佐人の行為については、取消権を行使できない点に注意してください。

家庭裁判所の審判により行使できる代理権

代理権とは、被保佐人が行う特定の法律行為を保佐人が代わって行うことができる権限のことです。
本来、被保佐人は自ら法律的な行為を行うことが可能とされるため、保佐人に代理権はありません。

ただし、代理権が必要な場合は、家庭裁判所に申し立てを行うことで代理権の付与を受けられます。なお、被保佐人以外が代理権を請求した場合は、代理権の申し立てに被保佐人の同意が必要となります。

被保佐人が保佐人の支援を必要とする場合

被保佐人が保佐人の支援を必要とする場合

日常生活にまだ深刻な影響は無くとも、認知症などの症状が進行している場合は、成年後見制度の利用を検討しましょう。
家族や親族が以下のような状況にある時は、保佐人による支援が必要です。

適切にお金を使うことができない

認知症などによって判断能力が低下してしまい、適切にお金を使うことができなくなってしまった場合です。
金銭の貸借や不動産の売買など業者に不利な契約を結ばされてしまったりする可能性があるため、保佐人の同意や同意がない場合の取消権などが必要だといえます。

資産を管理することができない

判断能力が低下した結果、所有する不動産などの資産を自身で管理、または運用・処分することが難しくなった場合です。自分の持っている資産を適切に管理する上で保佐人による支援が必要だといえるでしょう。

家族による使い込みがある

本人の判断能力が低下したことに目をつけて、家族や親族の誰かが不正に財産を使い込んでいる場合です。財産の管理は、保佐人に支援してもらい、贈与や相続に関する法律行為は、保佐人に同意してもらうことが必要です。

保佐人が被保佐人の支援を開始する流れ

保佐人の申し立てを行い、実際に被保佐人の支援を開始するまでの流れは次の通りです。

保佐人が必要だと判断するタイミング

認知症などによって本人の判断能力が低下し、前述したような事態が起こっている場合には、保佐人が必要でしょう。重大なトラブルに発展する前に、被保佐人となる人の所在地の家庭裁判所に成年後見制度の申し立てを行うことになります。
また、地方自治体によっては、制度の利用に関して法テラス(日本司法支援センター)や成年後見センターなどで案内や相談を行っている場合があります。疑問や悩みがあれば、各機関に問い合わせるとよいでしょう。

保佐人になるための要件

保佐人になるために、特別な要件や資格は必要ありません。
申し立てを受けた家庭裁判所が審査を行い、保佐人が必要だと判断した場合、保佐人が選任されます。

保佐人になるのは本人の希望や状況などを考慮して、家庭裁判所がふさわしいと判断した人です。ただし、家族間で係争中であるといった特殊な事情の場合は、弁護士や社会福祉士などの専門家が選ばれる場合もあります。

保佐人に支援してもらうために必要なもの

保佐人に支援してもらうために必要なもの

保佐人による支援を受ける申請には、本人の判断能力が低下していることを証明するため、医師の診断を受けて診断書を作成する必要があります。
その他、申立てに関わる書類と、添付書類を用意する必要があります。それぞれの主な書類は以下の通りです。詳しい書式及び記載例については各裁判所のホームページを参考にしてください。

裁判所Webサイト(奈良)「成年後見・保佐・補助開始申立て・必要書類」

申立てに関わる書類
・申立書
・申立事情説明書
・代理行為目録【保佐・補助用】
・親族関係図
・親族の意見書
・財産目録
・相続財産目録
・収支予定表など

出典 

添付書類
・診断書
・保佐人候補者の住民票又は戸籍附票
※法人の場合は商業登記簿謄本(登記事項証明書)
・本人情報シート写し
・本人と申立人の戸籍謄本
・本人の住民票又は戸籍附票
・本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
・本人の財産に関する資料(預貯金通帳写し,残高証明書、ローン契約書写しなど)
・本人の収支に関する資料(給与明細書、確定申告書、家賃など)
・同意権、代理権を要する行為に関する資料(同意権付与又は代理権付与を求める場合)
・本人の健康状態に関する資料(介護保険認定書、身体障害者手帳などの写しなど)

出典 

また、費用として、申立手数料が収入印紙800円分(最低金額)、登記手数料が収入印紙2,600円分必要です。保佐人選任の申立書や保佐開始の審判書などを送付するために必要な郵便切手も必要になります。詳細については、申立て先の家庭裁判所に確認してください。

さらに、原則として、本人の判断能力を医学的に鑑定する必要があります。その場合、鑑定人への報酬として5~10万円ほどかかります。ただし、申立書や診断書の内容から判断して鑑定を行わない場合もあります。

保佐人にサポートしてもらう際の注意点

保佐人にサポートしてもらう際の注意点

被保佐人は自らを支援してもらう保佐人に対して、対価として報酬を支払う必要があります。報酬金額は、月に1~2万円ほどが相場です。

財産の管理も行う場合はさらに報酬が追加され、管理する財産の額に応じて、2~6万円ほどが相場です。

報酬額は申立てがあった際に裁判官が決定しますが、その金額に明確な基準がある訳ではないという点にご注意ください。

判断能力が低下したときは保佐人からの支援を検討しよう

判断能力が低下したときは保佐人からの支援を検討しよう

認知症などにより判断能力が低下してしまった場合は、成年後見制度を利用することができます。本人の法律行為をどの程度まで、代理してもらうのか、同意してもらうのか、によって成年後見人、保佐人、補助人が選出されます。
保佐人は、被保佐人の判断能力が低下しているものの法律行為を行える状態であるため、一部の代理権と同意権、取消権が付与されています。

大切な財産を守り安心して後継者に引き継ぐためにも、判断能力の低下を感じた時は、自分の判断を傍らで支援してくれる保佐人に頼ることを検討しましょう。

ご留意事項
  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。

RANKING

この記事もおすすめ