払い戻しをしなかったチケットで節税しよう

チケットを買ったのにイベントが中止に...。新型コロナの影響で多くの公演やイベントが中止になり、せっかく購入したチケットが無駄になってしまった経験のある方もいるのではないでしょうか。払い戻しをしていないチケットをお持ちの方は控除を受けられる可能性があります。今回はその条件や手順、金額について解説します。

払い戻しをしなかったチケットで節税しよう

チケットを購入した公演が中止に

筆者の数少ない趣味の一つが、クラシック音楽公演の鑑賞です。例年ならば月に2~3公演のペースでコンサートホールに足を運んでいましたが、2020年はチケットを購入していた公演がことごとく中止になり、ほとんど生演奏に触れることができませんでした。

唯一の例外となったのが、11月のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演です。当初予定されていたアジアツアーの中国や韓国、台湾での公演はキャンセルされただけに、“決行”には賛否両論が飛び交いましたが、背後には日本政府とオーストリア政府との高度な政治的判断も働いていたようです。

ともあれ当日、ワレリー・ゲルギエフ氏のタクトで粛々と演奏されたチャイコフスキーの《交響曲第6番 悲愴》は、筆者に新鮮な感動をもたらすものでした。
《悲愴》はある意味チャイコフスキーらしからぬ、内省的で陰鬱な曲です。《交響曲第5番》のような華やかでスケールの大きな曲を好む筆者は、恥ずかしながら数えるほどしか演奏を聴いたことがありませんでした。

しかし、最終章が消え入るように終わってコロナによる死者に捧げる黙祷に入ったとき、残響の靄が心地良くホール全体へと広がり、あたかも天から慈愛の光が注がれているかのような不思議な気持ちになったのです。

《交響曲第5番》が運命のテーマを高らかに歌い上げる「元気をくれる曲」だとしたら、チャイコフスキーが鬱と戦った自らの人生を表現したという《悲愴》は「再生の曲」なのかもしれません。かくして2020年唯一の生公演は、“音楽の力”を身を以て感じた、大変得難い経験となったのです。

払い戻しを受けていないチケットで寄附金控除を受けよう

閑話休題。ライブの有料配信が急増する前の2020年前半には、公演の中止が決まったアーティストがSNSで事務所の経営悪化を訴えた事例などもあって、一部のファンの間でアーティストの力になるべく事前購入したチケットの払い戻しを止めよう、という動きが広がりました。
筆者も同様の理由で払い戻しをしなかった公演があります。この原稿を読んでいただいている皆さんの中にも、意図的に中止公演のチケットの払い戻しを見送った方がいらっしゃるのではないでしょうか。

そうした方にぜひご検討いただきたいのが、期間限定の寄附金控除の特例です。

2020年2月1日以降にコロナの影響で中止・延期された国内のイベントや公演で、文化庁やスポーツ庁から指定を受けたものについては、払い戻しを放棄したチケットの代金を所得税や住民税から控除することができるのです(この原稿の執筆時点(2021年1月現在)では「イベントや公演の開催予定が2020年2月1日~2021年1月31日だったもの」とされていますが、延長される可能性が大きいと思います)。対象となるイベントや公演は文化庁やスポーツ庁のウェブサイトで確認できます。

寄附金控除の申告手順と金額は?

控除を受けるのには申告が必要ですが、この特例の場合はその前にもうひと手間必要になります。主催者に連絡し、未使用のチケットを確認してもらうなどして「払い戻し請求権を放棄する」意思を伝え、主催者から「指定行事認定証明書」と「払戻請求権放棄証明書」という2種類の証明書を取得しなければならないのです(証明書は申告書と一緒に税務署に提出します)。

「何だか面倒臭そう」と思われるかもしれませんが、この特例には「所得控除」か「税額控除」のいずれかを選べるという特典があります。オススメは後者の税額控除。税金を計算する前の所得ではなく、計算後の税金から直接差し引くことができるので、年収数千万円という高給取りの方を除けば、大きな節税効果が期待できます。
ネットニュースなどでは、「1万円のチケットの払い戻しを放棄した人は4000円の減税になる」といった情報が出回っていますが、これは、税額控除を選択することを前提に算出した金額です。

1万円のチケット代を税額控除の計算式に当てはめると、所得税が「(1万円-2000円)×40%=3200円」、住民税が「(1万円-2000円)×10%=800円(条例で優遇措置を定めた自治体の場合)」で、両者の合計は確かに「4000円」となります。
医療費控除などの控除は所得控除しか選べませんから、節税効果が限定されます。仮に課税所得300万円の人(シングルであれば年収600万円程度)が2020年に11万円の医療費を使い申告したとして、還付される所得税は「(11万円-10万円)×10%=1000円」に過ぎません(住民税も多少は軽減されますが)。

他の控除との兼ね合いで必ずしも計算通りにはならない場合もありますが、この“還元率”なら「手間暇かけても申告してみようか」という気になるのではないでしょうか?

寄附金控除を申告する時の注意点

ちなみに、特例の対象になるチケット代は1人につき1年で20万円まで。プロスポーツやクラシック公演などのシーズンチケットなどで20万円を上回る場合は、20万円までが対象です。現時点の情報では、2021年12月末までに主催者に連絡して、払い戻し請求権放棄の意思表示をすることになっています。

ここで気を付けたいのが申告のタイミングです。2020年に開催予定だった公演だからといって、2月16日からスタートした2020年分の確定申告で申告書を提出しなければならないわけではありません。基準はあくまで「主催者に払戻請求権を放棄する意思表示をした日」ですので、この記事を読んで主催者に連絡を取る場合は、来年の申告となります。

とはいえ、「なぁんだ!全然余裕じゃん!」と放置しておくとあっという間に1年が過ぎ、気づいたときにはチケットが見当たらないという事態も十分起こり得ます。思い立ったら早めに証明書の取得までを済ませておくことをお勧めします。

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