遺産分割協議はやり直しができる?再協議の方法や税金などの注意点

遺産分割協議が終わってからも相続人の同意や事情がある場合は、遺産分割協議のやり直しは可能です。この記事では、相続のやり直しについて解説します。相続した財産の手続きや二重課税などのリスクなど、複雑な場合もあるため注意が必要です。

遺産分割協議はやり直しができる?再協議の方法や税金などの注意点

遺産相続(遺産分割)のやり直しは可能

遺産相続(遺産分割)のやり直しは可能

遺産相続(遺産分割)は、遺産分割協議に参加した全ての相続人の合意があれば、やり直しが可能です。
しかし、さまざまな相続手続きをもう一度やり直すことになったり、余分な税金がかかったりと、多大な労力やお金がかかってしまう可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

遺産分割に時効はない

遺産分割には時効がありません。相続開始後から何年経っていても、遺産分割協議や調停、審判によって遺産分割をすることができます。また、遺産分割のやり直しにも時効はないため、何年後でも再協議をすることができます。

遺産分割の取り消しには時効がある

ただし、詐欺や強迫、錯誤を理由に一度成立した遺産分割を取り消したい場合には、時効があります。
遺産分割の取り消しの主張ができる権利は、取り消しができると知った時から5年が時効です。5年経つと遺産分割の取り消しの権利がなくなり、やり直しの主張ができなくなります。
遺産分割の取り消しの詳細は、後述します。

遺産手続きには期限がある

遺産手続きにはさまざまな期限が設けられています。
遺産分割に時効はありませんが、遺産手続きにはそれぞれ期限があります。遺産手続きの期限を過ぎてしまうと、延滞税がかかったり、税金の軽減特例を利用できないほか、権利を請求することができなくなってしまいます。

遺産相続の手続き 期限
死亡届 死亡から7日以内
相続放棄・限定承認 相続開始を知った日の翌日から3ヶ月以内
亡くなった方の準確定申告 相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内
相続税の申告・納付 相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内
遺留分侵害額請求 相続開始および遺留分の侵害を知ってから1年以内
遺留分を侵害されている事実を知らなかった場合は10年以内
相続した不動産の名義変更 相続人となったことを知ってから3年以内
相続税の還付請求 相続の開始を知った日の翌日から5年10ヶ月以内

遺産分割協議をやり直せる場合

遺産分割協議をやり直せる場合

遺産分割協議の合意内容を取り消す場合には、3つのパターンがあり「解除」「取り消し」「無効」といいます。
以下のいずれかの条件を満たした場合、遺産分割協議をやり直すことができます。

・相続人全員の合意がある場合
・協議の取り消しができる事由が発生した場合
・協議自体がそもそも無効になる場合

相続人全員が遺産分割協議のやり直しに同意した場合(解除)

遺産分割が有効に成立している場合であっても、遺産の分配方法を変更したいなどの場合、全ての相続人の合意があればやり直しが可能です。

やり直しをする例としては、遺産分割後に別の遺産があることが分かった場合や、当初の約束の前提となる事情が変わった場合などです。親の介護を条件として多くの遺産をもらえるように遺産分割をしたのに、その人が面倒をみなかった場合などが考えられます。

このような場合には、もともとの遺産分割協議の内容を見直し、再度遺産分割協議をして、全員が納得する分割を行います。
ただし、遺産分割協議のやり直しをすることによって、新たに課税が発生したり、相続登記の手続きをやり直したりと、手間と金銭面での負担が大きくなる可能性があります。

詐欺・脅迫・偽造・財産隠しなどがあった場合(取り消し)

遺産分割に関して、脅された、騙された、重大な勘違いがあった、未成年者が単独で遺産分割協議に入っていたなどのケースは、協議の取り消しを求めることが可能です。

具体的には、ほかの相続人もしくは第三者を使った脅迫を受けて合意した場合や、故意に財産が隠されていた場合、莫大な相続財産が発見された場合などです。

取り消しが認められるためには、それが正当な訴えだと証明できる証拠が必要ですが、裁判所に「遺産分割無効確認訴訟」を提起し、認められれば協議を取り消せる可能性があります。その場合は、相続人全員の合意がなくても遺産分割協議のやり直しができます。
ただし、取り消しを求められるのは、詐欺や脅迫、錯誤などの行為があることが分かった時から5年以内、または遺産分割協議が成立してから20年以内です。該当する事由がある場合は、早めに対処しましょう。

相続人全員が参加していなかった場合(無効)

相続人全員が遺産分割協議に参加していなかった場合は、そもそも協議自体が無効になることもあります。
遺産分割協議は、遺言書で指定された人や法定相続人など、遺産を受け取る権利がある人全員参加で行わなければなりません。全員の合意がない場合は無効になります。

例えば、離婚や再婚で家族関係が複雑になっている場合や、遺産を残した人が人知れず婚外子を認知していたなどという場合、想定していなかった相続人が出現することがあります。
この場合は遺産分割が無効となる可能性があるので、このようなトラブルを避けるためにも、事前に相続人をしっかり確認しておきましょう。

また、基本的に幼児や重度の認知症などで判断能力が著しく劣る相続人が、法定代理人不在のまま単独で協議に参加していた場合も無効になります。
これは、幼児や重度の認知症で適切な判断が難しいと、ほかの相続人に権利を侵害される恐れがあるため、それを避けることを目的に定められている措置です。

なお、親と子供が共に相続人になっているようなケースでは、親は子供の代理人になることはできません。相続に関係ないほかの人物を「特別代理人」として、立てる必要があります。
特別代理人は、家庭裁判所に申し立てて選出します。あらかじめ候補者を設定しますが、不適切だと判断された場合はその他の親族や弁護士、司法書士などが選出されることもあります。

このように特別な事情があれば、協議を取り消す、または無効にできる可能性があります。再協議に不満を訴える人がいる場合は「遺産分割協議無効確認訴訟」という裁判を起こすことも可能です。裁判で無効の判決が出ると、その協議書は効力を失くします。

遺産分割協議をやり直せない場合

遺産分割協議をやり直せない場合

遺産分割の方法について相続人間で争いがある場合には、相続人間の協議ではなく、家庭裁判所の調停または審判により遺産分割が行われます。この調停や審判で遺産分割が行われた場合は、たとえ相続人全員が遺産分割のやり直しを希望していたとしても、やり直すことはできません。
遺産分割審判に不服がある場合は、審判の告知があった日から2週間以内に即時抗告を行う必要があります。不服申し立ての期間については、1日でも遅れると不服申し立てができなくなるので注意しましょう。

遺産相続(遺産分割)をやり直す時の注意点

遺産相続(遺産分割)をやり直す時の注意点

有効な遺産分割協議をやり直す際に注意が必要なのは、税金です。最初に相続した際に払った相続税とは別に、贈与税や所得税、登録免許税などが追加でかかる可能性があります。
遺産分割をやり直しする際の注意点について、具体的にみてみましょう。

第三者へ移転された財産は取り戻せない

いったん遺産分割協議が成立したあと、合意した遺産分割の内容を元に第三者へ権利が移転された場合、その第三者の権利が優先されます。
遺産分割をやり直したからといって、すべて元の状態に戻せるわけではないので注意しましょう。

贈与税・所得税の二重課税がある

税法上、一度納税された相続税はそこで完結しています。相続税は還付や免除などがないため、再協議で遺産をほかの人に渡すと「贈与」にあたるとみなされ、贈与税が発生する場合があります。
また対価を受け取った場合は、収入となるため、所得税を払わなければならない可能性があります。
このように遺産分割をやり直すことで、当初支払った相続税に加えて、新たに贈与税や所得税が発生することも考慮する必要があります。

不動産取得税や登録免許税などの二重課税がある

遺産が不動産の場合は、不動産登記の変更が必要なので新たに登録免許税を支払う必要があります。この場合も贈与や売買にあたり、不動産取得税が発生する可能性があります。

税法上は、遺産の分配をやり直すというよりは、一度受け取った遺産をほかに移動することになるため税金が発生し、結果的に二重課税になります。

ただし、協議の取り消しや無効の場合は、協議をやり直したというより、そもそも最初の遺産分割が正当に成立していないということだけになります。
相続税の支払い発生しますが、再度違う方法で遺産を分割したり、別の人に遺産が渡らなければ、二重課税は発生しません。

このように相続をやり直そうとすると税金や権利など複雑な問題が絡んでくるため、税理士や弁護士など、専門家の力を借りることを考えてもよいでしょう。新たに税金が発生するのか、またどれくらいかかるのか事前に確認しておくと安心です。

労力と時間がかかる

遺産分割をやり直す場合、相続人全員で話し合いを行うだけでなく、協議に必要な書類も集め直さなくてはなりません。遺産分割協議書の作成や、税金の申告と納付、不動産がある場合は、相続登記なども改めて行う必要があります。

遺産分割協議のやり直しには多くの労力と時間がかかるケースがあるということを理解したうえで、やり直しの検討をしましょう。

まとめ

まとめ

遺産分割協議は、基本的に時効がなく、相続人全員の合意があればいつでもやり直すことができます。また、脅されたり騙されたりしたような場合は取り消すことができ、新しい相続人が現れるなど、手続きに不備がある場合は協議そのものが無効になります。

遺産分割のやり直しは、労力や時間が想定以上にかかったり、二重課税の費用が発生する可能性もあるので、事前にしっかり確認して慎重に検討しましょう。

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