親のお金は早めにもらう!

生前贈与の王道である、贈与税の非課税枠を利用した「暦年贈与」。祖父母や親から毎年100万円程度の贈与を受けている方もいるのではないでしょうか?今回は、持ち戻し期間が延長された改正後の「暦年贈与」についてや、生活資金や教育資金などの“相続の先渡し”のポイントなどをご紹介します。

親のお金は早めにもらう!

近年持ち戻し期間が延長された「暦年贈与」

贈与税の非課税枠(1年につき110万円)を利用した「暦年贈与」は、生前贈与の王道です。暦年贈与の件数は2013年以降35万件を超える高水準で推移しており、読者の中にも、祖父母や親から毎年100万円程度の贈与を受けている方がいるのではないでしょうか?

その暦年贈与ができなくなるのではないかと騒がれた「贈与税と相続税の一体課税」論議は、2022年末に公表された「令和5年度与党税制改正大綱」で一応の決着を見ました。
心配された暦年贈与封じは回避され、代わりに生前贈与の「持ち戻し」期間が2024年以降、3年から7年へと延長されました。持ち戻しと言われてもピンと来ないという方もいらっしゃると思いますので、具体例を挙げてご説明しましょう。

改正後に加算される相続財産はどれくらい?

Aさんという人が、父親が亡くなるまで10年に渡り、毎年100万円ずつ、合計1000万円の贈与を受けていたとします。父親の相続が発生した際は、現行制度だと3年分の300万円が相続税の計算対象となる相続財産に加算されますが、改正後は7年分の700万円が加算されることになります。

せっかく生前贈与した意味がなくなるじゃないか、と思うかもしれません。しかし、相続財産への持ち戻しが3年というのは先進国の中でも異例の短さなのだそうです。ちなみに、英国が7年、ドイツが10年、フランスは15年、米国に至ってはなんと無期限というから驚きます。

とはいえ、それなら仕方ないよねと諦めるのでなく、これからは個人も、企業の事業承継のように早めに、計画的に、資産の承継を進めておく必要があるように思います。50代、60代の親だと現役でバリバリ仕事をしている方も多く、親子共に「相続なんてまだずっと先の話でしょ」と考えている人が圧倒的でしょう。確かにその通りなのですが、親が資産家だとしたら、子供が経済的にピンチに陥ったり、まとまったお金が入り用になったりした時は、実は、効率良く贈与するチャンスでもあるのです。

値上げや金利の上昇から考える親からの援助

2022年12月の国内消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)の上昇率は4.0%、1981年以来41年ぶりの高水準になりました。通常のインフレは景気が拡大して会社員の給料も上がるものですが、今回は正直、微妙です。ユニクロのファーストリテイリングのように最大で年収4割アップという大盤振る舞いをする企業がある一方で、東京新聞と城南信用金庫がこの1月、中小企業738社を対象に実施した調査では、実に7割以上が「賃上げの予定なし」と回答しています。

電力料金や食料品などの値上げが直撃する中で、住宅ローンや教育費の負担が大きい家庭は厳しい家計運営を強いられそうです。そんな時には、“相続の先渡し”として親から生活費や大学生の子供の授業料を援助してもらうのも1つの方法です。こうしたケースでは、仮に援助額が年間110万円を超えたとしても贈与税はかかりません。

相続税法第21条の3第1項第2号の贈与税の非課税財産に関する条文には、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」と記載されています。扶養義務者とは、民法第877条第1項目によれば「直系血族及び兄弟姉妹」です。よって、親からもらったお金でも生活費や教育費として使う分には課税対象にならないのです。これは、子供がそれとは別に年間110万円以下の暦年贈与を受けている場合も同じです。

まとまったお金が入り用になるケースとして、まず挙げられるのがマイホームの購入です。2022年末に日本銀行が長期金利誘導目標の許容変動幅を「±0.25%」から「±0.5%」に拡大したことを受け、メガバンクなどの固定金利型住宅ローンの金利が大きく上がっています。それによって当初の返済プランが狂ってしまい、借りても返していけるのか不安を覚えている人も少なくないのではないでしょうか。

金利の上昇を前提に返済期間を延ばすことなく月々の返済額を当初予定した範囲内に収めるには、借入額を減らすしかありません。それなら、足りない分を親から援助してもらう手があります。2023年中の住宅購入を考えている人は、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」の特例が使え、贈与を受けた人1人につき省エネ等住宅は1000万円、それ以外の住宅だと500万円までは課税されません。特例の期限は12月31日、2024年3月15日までに購入した住宅に入居すること(もしくは居住が確実だと見込まれること)などが条件となっています。詳細は国税庁のWebサイト「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」でご確認ください。

親から“相続の先渡し”を受ける際のポイント

余談ですが、筆者の知人の金融関係者には、住宅購入資金を全額親からの借金で賄っている人が結構います。“親ローン”だと住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)が受けられず、返済中の死亡や高度障害に備える団体信用生命保険に加入できないといったデメリットもありますが、土地や建物を担保として提供する必要がありません。ですから、半年以上滞納すると競売によって自宅を差し押さえられ強制退去になるといったリスクが回避できます。さらに、相手が親なら返済の融通も利きます。

ただし、専門家によると、親から融資を受ける場合は後々贈与と見なされないような対策を打っておく必要があります。まずは、親子であっても融資時にはしっかり借用書を交わしておくこと。もう1つが、必ず利息をつけて返済することです(市中金利の最低水準くらいで問題ないそうです)。

“親ローン”は親から見ても子供を助ける達成感が得られますし、預貯金+αの利息はつくわけですから、休眠資金の有効活用になります。リタイア後には、月々の返済が年金を補強します。実は親子双方にとってメリットの多い、win-winの方法なのです。

さて、いつまでも親の財布を当てにするのは感心しませんが、生活資金や教育資金、住宅資金などお金が必要なタイミングで“相続の先渡し”を受ければ、資金調達と節税がダブルで実現できます。これからは、親のお金は早めにもらうのがオススメです。

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