6000万円のマンション、買いますか?

最近の新築マンションは、単に販売価格が上昇しているだけではなく、最新の設備も相応に充実しています。とはいえ、6000万円を超えるマンションは高収入の夫婦であっても難しいというのが現状です。住居はライフプランに合わせて様々な選択肢があるのが今では当たり前です。今回は、そんな多様化する住まいについて考えていきます。

6000万円のマンション、買いますか?

バブルが進行中!増えるハイグレードマンション

都市部を中心としたマンションバブルが進行しています。

首都圏で昨年1年間に販売された新築分譲マンションの平均価格は6260万円まで上昇し、バブル期の1990年を超えて過去最高を更新しました。

最近の新築マンションを見ると、単に販売価格が上昇しているだけではなく、最新の設備も相応に充実している印象を受けます。ピッキングのハードルが高いと言われるPR(プログレッシブ)シリンダーキーや自家発電システムなどしっかりした防犯・防災対策が施され、ディスポーザーやミストサウナ付き浴室乾燥機など快適性を追求する設備も備え、さらにマンションによってはフィットネスルームや屋内プールがあったり、コンシェルジュやバレーパーキング(外出する際にマイカーを駐車場からエントランスまで回してくれる)といった都心のラグジュアリーホテルのようなサービスを提供していたりします。

取材でモデルルームに入った際には、その機能性と、グレード感あふれる雰囲気に圧倒されました。リモートワーク用の仕事部屋が付いた物件も増えているそうで、コロナ禍だからこそ、こうしたマイホームを求める気持ちも理解できる気がします。しかし、都心を中心に販売価格が1億円を超える「億ション」も多く、一体どういう人たちが買うのだろうと、あれこれ想像をめぐらせてしまいます。

6000万円を超えるマンション購入は大変

近年、ハイプライス&ハイクオリティマンションの買い手として注目されているのが、高収入の共働き夫婦「パワーカップル」です。あるシンクタンクのリポートによれば、夫婦共に年収700万円以上のパワーカップルは、2020年時点で34万世帯存在し、総世帯(5179万世帯)の0.62%、共働き世帯(1621万世帯)の2.1%を占めています。現時点では少数派ですが、着実に増えてきており、コロナ禍で停滞する消費の分野でも存在感を示しているようです。

しかし、そうしたパワーカップルでも、首都圏で平均価格が6000万円を超える新築マンションをゲットするのは、なかなか大変そうに思えます。

住宅購入の際は約8割の人がローンを利用します。もっとも、今は返済額が年収のどれくらいを占めるかを示す「返済比率」が重視され、貸し手の金融機関も返済比率が35%を超えるような融資はしていないはずです。結果として返済能力に釣り合わないマンションを買って後悔するリスクはかなり抑えられているように思います(最近起きている住宅ローンの返済難は、主としてコロナ禍による想定外の収入減に起因するものです)。

それでも、トータルなライフプランだと不安は残ります。

仮に6500万円のマンションを購入し、2割の頭金を入れて残りの5200万円を35年返済のローンにしたとしましょう(金利1.2%、元利均等返済)。総返済額は約6370万円、頭金の1300万円と合わせると7670万円を支払うことになります。マンション購入時には住宅ローンや登記などの費用がかかりますから、これが物件価格の5%と見積もって325万円。家具やインテリア用品、家電なども新しいものを買ったとして、平均的な購入費約200万円も計上しておきます。さらにマンションの管理費や修繕積立金、毎年の固定資産税などを加えたら、トータルの住居費はゆうに1億円を超えてくるでしょう。

住居にお金をかけないという選択肢

一方で、平均的な大卒会社員の生涯収入は退職一時金を含めて2億円程度と言われています。パワーカップルで2人合わせて4億円の収入があったとしても、生活費に加えて子どもの教育費も必要ですし、自分たちの老後資金も準備しなければなりません(人生100年時代には老後資金が夫婦で1億円必要という専門家もいます)。住居費だけで1億~2億円かかってしまったら、その他の費用の確保が難しくなるのではないでしょうか。

そもそも、日本は他の先進国に比べて住居にかけるお金が多過ぎると指摘されています(ベースとなる土地代や住宅関連費が高いということもありますが)。「映画やドラマに出てくるような素敵なマンションで暮らすことが生きる活力」という人ならやむを得ませんが、マイホームの一次取得者の中心となる30~40代には、自分や子どもへの投資、趣味、旅行など、もっと他にお金を使いたいことがあるのではないでしょうか。

そうした観点からすると、今ほど住まいの選択肢が豊富な時代はないように思います。公営住宅、空き家、シェアハウスなど手ごろな賃貸暮らしも1つの選択肢ですが、お金をかけずにマイホームを手に入れたいなら、親や祖父母、シングルの叔父や叔母などから、自宅を譲り受けるという方法もあります。

筆者の知人にも、都下の「おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた家」に夫婦で暮らしている人がいます。最初は都心の賃貸マンションとの二拠点生活(デュアルライフ)でしたが、コロナ禍で出社の回数が減り、1年後には都心のマンションを引き払っていました。築60年の建物を機能的にリフォームし、広い庭には月見台やピザ窯があつらえてあります。最寄り駅からちょっと遠いのですが、お子さんの学校や大きな病院、スーパーが徒歩圏内にあり、生活していく上で不便さは全く感じないそうです。

多様化する住まいの選択肢から最適解を見つける

今の時代、日本国内であればインフラやライフラインも整備されており、限界集落など特殊な事情がない限りは普通に暮らしていけるのではないでしょうか。コロナ禍においてはむしろ、「脱・東京」の方がトレンドと言えます。大手IT企業で社員が全国どこに住んでもいいように人事制度の改定が相次ぐなど、企業も社員の多様な暮らし方を後押ししています。

新築マンションの価格は建設時の費用を受けて設定されますから、景気とは“時差”があります。富裕層を中心にマンション需要も底堅く、しばらくはこのバブル価格が続くでしょう。こうした時期に“マイホーム適齢期”に差し掛かった人たちは一見アンラッキーと感じるかもしれませんが、だからこそ、多様化する住まいの選択肢をフルに生かして、自分なりの最適解を見つけていただけたらと思います。

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