改正DCの素朴な疑問に答えます

株式市場に逆風が続く昨今、投資について関心が高まっています。今回は、特に関心が高まっている会社の確定拠出年金(DC)やiDeCo(個人型確定拠出年金)について考えていきます。

改正DCの素朴な疑問に答えます

株式市場には大きな逆風が続く

2022年の株式市場は、年明けからジェットコースターのような展開が続いています。

3年目に突入したコロナ禍は、オミクロン株に続く変異種による「第7波」襲来リスクが指摘されるなど、なかなか出口が見えてきません。さらに、約40年ぶりの猛インフレに見舞われた米国が利上げ・金融引き締めに動き、「過剰流動性相場」に慣れた投資家の動揺を誘っています。加えて、ウクライナなどの「地政学的リスク」も楽観を許さない状況です。

いずれも株式市場には大きな逆風です。米国の大手投資銀行が1月下旬に発行したレポートで「年後半にリセッション(景気後退)パニックが起こるかもしれない」と警告しているくらいですから、穏やかではありません。日本国内には、「賃金が上がらない中での物価高」という景気のマイナス要因も存在します。

確定拠出年金への関心が高まる昨今

そんな中で最近、会社の確定拠出年金(DC)やiDeCo(個人型確定拠出年金)について尋ねられる機会が増えました。1つの理由はこのジェットコースター相場であり、加えて、2022年にDCの大きな改正が控えていることもあるように思います。

一番多い質問は、相場の流れが変わりそうなタイミングでスイッチングを行い、利益の確定や集中投資をした方がいいのかという質問です。こうした疑問を持つのは、投資への関心が高い人たちです。「儲けるチャンスを逃したくない」という気持ちもよく分かります。

だからといって、簡単に「そうだね。頑張って!」とは言えません。なぜなら、こうした積極策は裏目に出ることもあり、となると大事な老後資金が毀損されてしまうからです。そもそも、老後資金の確保を目的として原則60歳まで引き出せないDCやiDeCoの制度設計を考えると、ここはじっくり構えた方がいいように思います。

プロの方々も、短期と中長期では運用戦略を変えています。目先の相場動向により機動的に運用対象を組み換えていくのは、典型的な短期運用の戦略です。長期的に見れば、大暴落も緩やかな曲線のちょっとした凹みに過ぎない可能性が大きいのです。

定期的なメンテナンス(リバランス)が必要

一方で、定期的なメンテナンス(リバランス)は必要です。リバランスとは、運用している間に資産配分が最初に決めたものと大きく変わってしまった場合に、それを最初の配分に戻すことです。

例えば、近年は株高の状態が続いていますから、当初の資産配分を「株式50%+債券50%」としていたはずが、いつの間にか「株式80%+債券20%」になっていたという方もいるかもしれません。DCを始めた頃は「株式を50%も組み入れて大丈夫かな」と思っていたのに、気が付けばもっと強気な資産配分だったというわけです。

結果的にはこの間株式で稼げたわけですから、悪い話ではありません。しかし、当初は「株式50%+債券50%」の資産配分で40年間運用して平均5%の利回りを目指すといった計画を立てていたのでしょうから、このまま放置すると、その計画に狂いが生じる可能性があります。特に株式市場が好調なうちはまだしも、リーマン・ショック後のような状況になったら悲惨なことになりかねません。

DCの場合、年に1~2度運営管理機関から運用状況のお知らせ(レポート)が届くはずですから、それを確認して、例えば当初の配分から10%以上ずれていたらリバランスを行うといった“マイルール”を決めておくといいと思います。なお、バランス型ファンドで“お任せ運用”をしている方は、ファンドの運用担当者が適宜リバランスをしてくれますから、自分で行う必要はありません。

制度改正による「DCとiDeCoの併用」で選択肢広がる

次は制度改正の話です。コロナ禍でも着々と加入者数を増やしているiDeCoですが、現状、DCを導入している会社だと社員のiDeCoへの加入が制限されています。しかし、2022年10月以降は、そうした会社への足枷が外れ、社員はDCとiDeCoの併用がしやすくなります。

DCにマッチング拠出(会社が支払う掛金に上乗せする形で加入者本人も掛金を拠出できる)制度がある会社員を例に取ると、そのまま会社のDCでマッチング拠出を続けるか、新たにiDeCoに加入してiDeCoに拠出するか、いずれかを選択できるようになります。

こうしたケースで聞かれたのが、「マッチング拠出を止めて、今話題のiDeCoに加入した方がいいの?」という質問です。結論から言うと、筆者は、今の会社のDCに特に不満がなければマッチング拠出を続けた方がいいと思います。

マッチング拠出の方が口座の管理がしやすいですし、DCの口座管理手数料も会社負担です。iDeCoは加入時に3000円弱のコストがかかるのに加え、年間で2000~7000円程度の口座管理手数料(金融機関によって異なる)を自腹で払っていかなければなりません。

iDeCoを選んだ方がいい理由

そうした中で敢えてiDeCoを選んだ方がいいと思うのは、会社のDCの運用商品のラインアップや拠出金の枠に不満がある、近い将来独立する予定があり、その際にはこれまでDCで積み立ててきた資産をiDeCoに移換したいといった、然るべき理由のある人たちです。

さて、ここに来て新たにDCを導入する会社も散見されます。実は筆者の古巣もその1つで、アラフィフ(50歳前後)の元同僚からは「加入に前向きになれない」という声もちらほら聞こえてきます。確かに、これから加入しても積み立ては60歳までですから、今さら感があるのでしょう。

しかし、今回の改正により2022年5月からは、60歳になったらiDeCoに加入して65歳まで積み立て投資を継続することが可能になります。

会社員では50代前半に生涯賃金のピークを迎える人が多く、DCやiDeCoの「掛金が全額所得控除」という税制メリットの恩恵は小さくありません。仮に50歳で加入したとするなら、控除を受けられる期間が10年から15年に延長されるわけですから、シニア世代もDCやiDeCoを他人事と切り捨てず、老後資金の上乗せに役立てていただきたいと思います。

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