フェルメールの「黒歴史」に思うこと

2021年から2022年にかけて、あのヨハネス・フェルメールの話題作が相次いで来日します。「光の魔術師」とも称されるフェルメールですが、18世紀には完全に画壇から忘れ去られた存在になっていたという話をご存じでしょうか?にわかに信じがたいですが時代によって評価が大きく変わることは投資に通じる要素があるように思います。

フェルメールの「黒歴史」に思うこと

ファンでなくても必見の人気作が来日

まずは2021年11月13日(土)から大阪市立美術館でスタートする「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」に本邦初公開となる『信仰の寓意』が出展され、さらに2022年1月22日(土)から東京都美術館で開催される「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀のオランダ絵画展」では初期の人気作『窓辺で手紙を読む女』が修復後に収蔵館以外で世界初公開されることが内外のメディアで大きく取り上げられています。
『窓辺で手紙を読む女』はX線調査により背後の壁に天使の画中画が描かれていることが分かっていたのですが、今回の修復でフェルメール自身が意図的に消したのではないことが判明し、修復後はこの画中画も元通りになって作品の印象がだいぶ変わっています。フェルメールファンでなくても必見ですね。

なお、メトロポリタン美術館展は2022年2月9日(水)からは東京の国立新美術館に舞台を移して開催されます。フェルメールと17世紀オランダ絵画展の方も、東京の後に北海道、大阪、宮城を巡回する予定です。

忘れ去られた「光の魔術師」と売れっ子カメラマン・リゴーの対比

フェルメールは代表的な風俗画の数々で画面左側に配した窓から差し込む光の反射やハイライトをポワンティエという点描法を用いて巧みに表現しており、「光の魔術師」と称されています。17世紀には金(ゴールド)よりも高価だったという貴石ラピスラズリを原料としたウルトラマリンブルーを好み、黄色との斬新な組み合わせで独特の世界観を構築しました。この色使いが同じオランダ出身のフィンセント・ファン・ゴッホに影響を与えたという見方もあります。

しかし、そのフェルメールが18世紀には完全に画壇から忘れ去られた存在になっていたという話をご存じでしょうか? 代表作『真珠の耳飾りの少女』が市場に出ることがあったら150億円は下らないだろうと言われる人気画家ですから、にわかに信じがたいのですが、これは厳然たる事実です。短命で作品数自体が多くなかったこと、活動していたのがデルフトという小さな町だったことなどが影響しているのかもしれません。とはいえ、19世紀にフランスの美術評論家テオフィル・トレ=ビュルガーがその魅力を再発見するまで、珠玉の作品群は記憶の底に沈んでいたのです。

フェルメールが43歳で早逝した1670年代、お隣のフランスはあの太陽王ルイ14世の治世下にあり、当時の王宮で我が世の春を謳歌した肖像画家がイアサント・リゴーという人物でした。美術史を学んだ方なら当然ご存じでしょうが、一般の美術ファンはなかなか目にすることのない名前です。
リゴーの肖像画はモデルのオーバーなポージングと、人物の表情や衣服の高い再現性に特徴があり、ルイ14世をはじめとするセレブから引く手あまたの人気を博していました。現代にたとえるなら、売れっ子カメラマンといった立ち位置でしょうか。後年は故郷のペルピニャン(フランス領カタルーニャ)に戻って貴族になったようですから、充実した生涯だったのだと思います。

しかし、画家としての評価はフェルメールと対照的です。確かに、リゴーの作品は素人目に見ても、フランス王朝黄金期の時代考証にはうってつけですが、フェルメールの作品のように時空を超えて現代人の心を震わす要素はあまりないように感じられます(ご興味のある方は、ルーヴル美術館収蔵の油彩画『ルイ14世の肖像』などがウェブサイトでご覧になれます)。

画家の評価は投資に似ている?

画家に対する評価が時代によって大きく変わることは珍しくありません。フェルメールだけでなく、カラヴァッジョやレンブラント・ファン・レインも19世紀以降に再評価された画家です。
それこそ美術の難しいところですが、こうした難しさは投資に通じる要素があるように思います。特に長期投資の場合は、数十年先の未来を見据えた銘柄選択が欠かせません。しかし、社会の技術革新のスピードは私たちの想像をはるかに上回っています。ブラウン管テレビやフィルムカメラやCDが早晩“過去の遺物”になることを、平成初期に誰が予想していたでしょうか?

その中でフェルメールのようなお宝銘柄に遭遇できれば理想ですが、運もあって、なかなかハードルが高そうです。一方で、確実に言えることが1つあります。例えば確定拠出年金(DC)でアクティブ型のファンドを選ぶ際、リゴーのようなファンドに手を出してはいけないということです。
「時代の寵児」はいかにも魅力的に目に映ります。しかし、やがてその時代が終焉を迎えると潮が引くようにして純資産が減り、繰り上げ償還になったファンドを幾つも見てきました。こうしたファンドは、短期売買ならいいかもしれませんが、DCのような長期の資産形成には不向きです。

もちろん、アクティブ型ファンドにも長期投資を前提に戦略的な運用を行っているものが多数あります。ですから、アクティブ型ファンドに投資する際は、そのファンドがどういうポリシーを持って、どんな企業の株式で運用されているのかを確認する必要があります。ファンドの目論見書や運用報告書は情報の宝庫です。面倒だからとスルーせず、必ず目を通しておきたいものです。

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