インフレ、ウエルカム?

日常生活の中で、「これってインフレ?」と思う出来事が増えてきました。この物価上昇は、ざっくり言うなら「コロナインフレ」です。この記事では今回のインフレの背景や影響について詳しく解説していきます。

インフレ、ウエルカム?

パンデミックによる物価上昇「コロナインフレ」

日常生活の中で、「これってインフレ?」と思う出来事が増えてきました。スーパーの店頭では、この夏、小麦粉やパスタ、食用油の値上げラッシュが起きています。車やバイクに乗る方は、5月以降、ガソリン価格の上昇に閉口しているのではないでしょうか。住宅や建設業界で働いている方なら、世界的な木材不足による建材価格の高騰「ウッドショック」の影響を受けているかもしれません。

米国に至っては、消費者物価指数(CPI)が5月、6月と続けて5%台を記録し、2008年以来13年ぶりの高水準となっています。
5年ほど前、バブル世代の友人と「ひょっとしたら、私たちが生きている間にもう2度とインフレは来ないかもね」などと冗談交じりに話していたのが嘘のようです。

この物価上昇は、ざっくり言うなら「コロナインフレ」です。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によりヒトやモノの流れが遮断され、その結果、商品やサービスの生産や流通に不具合が生じて、供給不足でモノの値段が上がってきているのです。

象徴的なのが、自動車や冷蔵庫、スマートフォンなど電気で動く製品には欠かせない半導体でしょう。コロナ禍で家庭用乗用車の需要が高まっているにもかかわらず、半導体不足で自動車メーカーの新車生産台数は激減しました。その結果、何が起きたかと言えば、「とにかくマイカーが欲しい」人たちが殺到した中古車市場がヒートアップしているのです。

長期化した日本のデフレと問題点

米国はさておき、日本経済は昭和バブルの崩壊後ずっと、インフレの対極にあるデフレの状態でした。近年は日本銀行が2%のインフレ目標を掲げ、ゼロ金利や国債・上場投資信託(ETF)の買い入れなどありとあらゆる手を打ってきましたが、なかなか目標達成には至りませんでした。

そうやってデフレが30年近く続いた結果、「モノやサービスは安ければ安いほどいい」「節約してあまりお金を使わないようにしよう」といったデフレマインドが浸透し、日本経済停滞の要因になったと指摘されています。一方、こうした消費者マインドを上手く取り込み躍進したのが、ユニクロ、ニトリ、すき家、ダイソーといったデフレ企業です。

しかし、日本のデフレにはネガティブな見方が少なくありません。とりわけ最近話題になっているのが、戦後40年以上に渡り世界第2位の経済大国だった日本が、デフレの長期化でいつの間にか「安い国」になってしまったという論調です。

その根拠とされるのが、グローバルに展開するハンバーガーチェーン・マクドナルドの人気商品ビッグマックの価格が日本は先進国の中で最も安く、東京ディズニーランド(TDL)のワンデーパスポートの料金は世界のディズニーランドの中でも最低水準である……といったデータです。なるほどと首肯しつつもつい、「8000円を超えるワンデーパスポートって高くない?」と感じてしまうのは、筆者の骨の髄まで沁み込んだデフレマインドのなせる業でしょうか。

しかし、一番の問題点はそこではありません。アベノミクスは戦後2番目の長さに及ぶ景気拡大を実現しましたが、残念ながら、多くのサラリーマンはその恩恵に預かっていません。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均年収ランキング(2020年版)を見ると、米ドル建ての日本の平均年収は先進国中最低レベルで米国の6割弱に過ぎず、ニュージーランドや韓国よりも低くなっています。

かつての日本は技術力の高さもあり、アジア諸国の出稼ぎ先として圧倒的な人気を誇っていました。しかし、この賃金水準では魅力が薄れるのも仕方ありません。ちなみに、出稼ぎ大国フィリピンで、ここ数年最大の受け皿となっているのは日本でなく、サウジアラビアだそうです。

コロナインフレによる家計への影響

さて、こうした流れの中でのコロナインフレは、日本経済にとって、私たちの家計にとって、「ウエルカム」な存在なのでしょうか? 
どうやら、必ずしもそうではなさそうです。

一つには、今回のインフレが不況下の物価上昇、経済用語で言えば「スタグフレーション」ではないかとの見方が強いことが挙げられます。不景気で賃金も上がらない中、モノの値段だけ上がっていくのは家計の圧迫要因となることから、スタグフレーションは「悪いインフレ」と呼ばれています。

もう一つの懸念点が、今回のインフレを機に米国の金融政策が方向転換されるかもしれないということです。コロナ禍での経済活性化のため、じゃぶじゃぶとお金をばら撒く政策から、金融引き締め、つまりは利上げへの転換です。

ばら撒きが奏功し、米国の株式市場は今夏もニューヨークダウ工業株30種平均が史上初の3万5000米ドル台を記録するなど好調そのものです。しかし、金融引き締めとなれば、マーケットの潮目が変わってしまう可能性は小さくありません。利上げは企業業績の悪化につながるため、原則、株価にとってはマイナス要因なのです。

まとめ:「資産分散」でリスクヘッジを

こうした歓迎すべからざる事態が現実のものとなる前に、個人投資家にはやっておきたいことがあります。リスクヘッジとしての「資産分散」です。

運用対象となる金融商品には、デフレ期に活躍するもの、インフレ期に活躍するものと、いろいろあります。預貯金や債券だけでなく、国内外の株式、現物資産などにも幅広く投資しておけば、その時々で好調な資産が値上がりすることによって、資産全体の目減りを抑制できます。

「幅広く投資」などと言うと一見面倒に感じるかもしれませんが、今は投資信託1本で手軽に分散投資ができてしまう時代です。不精な方なら、会社の確定拠出年金(DC)の運用先に商品性のしっかりしたグローバル型のバランスファンドを選んでおくのも一つの方法でしょう。

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