津村 記久子×三菱UFJ信託銀行「楽しみなこと、ひとつ」最終話 昨日とは少し違う私
芥川賞作家・津村記久子さんによるショートストーリー「楽しみなこと、ひとつ」(全10話)の最終話「昨日とは少し違う私」をお届けします。

(C)津村記久子 シティリビング(東京版)11/29号
第10話 昨日とは少し違う私
午後3時になって、朝の飲みさしのカフェラテを給湯室の冷蔵庫に取りに行った帰りに、フロアの隅のファイル棚に寄る。棚の上にある、駄菓子のボトルのような形の水槽の中のメダカにエサをやる。地元の商店街の店で、水槽と水草とメダカのセットで500円だった。朝のカフェラテを毎日はやめる記念に買って、職場に置いてもいいでしょうかと飯田課長にたずねると、いいよ、とのことだったので置かせてもらっている。意外とみんな世話をしたがる。
朝の飲みさしのカフェラテのカップをデスクに置くと、あ、今日は買ってもいい日か、と飯田課長がモニターから顔を上げて呟く。
「朝大きいのを買って余らせると、昼にちょうどいいぐらいの量が飲めますよ」
「味はどう?」
「問題ないです。というかそんな細かいことわかる人間じゃありません」
朔美が肩をすくめると、飯田課長は笑う。
「うちの生徒、小学生ばっかりなんだけど、今度の授業はコーヒーの注文のことやろうかな」
「私も飯田さんの所でスペイン語やろうかな」
そのぐらいの余裕はできたと思う。朔美がカフェラテを取りに行くのと入れ替わりに席を立っていた松崎さんが、自分用のマグカップを持って戻ってくる。
「お昼に言い忘れたんですが、週末の三連休、地元に帰るんです。菜種油いる人います?」
松崎さんの言葉に、飯田課長が手を挙げる。朔美はまだ買ってきてもらったことがないので、そんなにおいしいんですか? とたずねると、おいしいよ、と飯田課長はうなずいた。
「退職後、松崎さんが菜の花畑をやる日が楽しみだな」
あーでもその時私は70歳かあ、元気でいたいな、と飯田課長は伸びをする。朔美も先のことはわからないけれども、何か楽しみなことが一つでもあるのはいいなと思った。
Check!「思い立ったが吉日」
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