お金の原価を徹底解説!日本の紙幣や硬貨の原価は?世界の貨幣の原価は?

500円玉を1枚作るためにはいくら必要かご存知でしょうか?昔はお金の原価と価値はほぼ同じでしたが、近年は差が生じています。そこで今回は、日本の紙幣・硬貨の原価を徹底解説します。また日本だけでなく、海外の通貨の原価と信用貨幣の仕組みについても併せてご紹介します。

お金の原価を徹底解説!日本の紙幣や硬貨の原価は?世界の貨幣の原価は?

日本の硬貨の原価

日本の硬貨の原価

日本の硬貨は政府が発行し、独立行政法人造幣局が製造しています。しかし、硬貨の製造コストについて造幣局は「国民の貨幣に対する信任を維持するためや、貨幣の偽造を助長するおそれがあると考えられる」として公表を控えています。

その一方で、各種の硬貨に含まれている金属の種類や割合は公表されています。このデータを金属の市場取引価格に照らし合わせることで、1枚当たりの原料価格が推定できることになります。
例えば1円硬貨は100%アルミニウムで作られており、重さが1gです。2018年のアルミニウムの価格は1kg当たり約291円前後です。この価格を当てはめると1円玉の原料価格は1枚当たり約0.29円となります。

また、1円玉以外の硬貨はすべて銅合金で作られています。製造年によって多少異なりますが5円玉は銅6割と亜鉛4割の「黄銅」、10円玉は銅95%に亜鉛と錫(スズ)を混ぜた「青銅」、50円玉と100円玉は7割5分の銅にニッケル2割5分の「白銅」。500円玉は約7割の銅に、2割の亜鉛とニッケル少々を混ぜた「ニッケル黄銅(別名、洋白)」で作られています。
2018年の価格は銅が1kg当たり約764円、ニッケルが約1462円、錫が約3658円、亜鉛は約372円です。これらの数値を元に原料価格を推計すると以下の結果になります。

日本の硬貨の原料価格(推計)

硬貨 成分 1枚当たりの原料価格
1円玉 アルミニウム100% 0.29円
5円玉 銅60~70%、亜鉛40~30% 2.28円
10円玉 銅95%、亜鉛3~4%、錫(スズ)1~2% 3.5円
50円玉 銅75%、ニッケル25% 3.75円
100円玉 銅75%、ニッケル25% 4.5円
500円玉 銅72%、亜鉛20%、ニッケル8% 5.19円

※金属の価格は2018年当時
※5円玉は銅60%、亜鉛40%で計算、10円玉は亜鉛4%、錫1%で計算

さらに、2018年度の各種硬貨の発行実績は、1円玉が約44万枚、5円玉が約1796万枚、10円玉が約1億7896万枚、50円玉が約5696万枚、100円玉が約5億6796万枚、500円玉が2億8619万枚で、合計約11億枚です。

造幣局の2018年度予算では貨幣製造事業にかける支出は総額約146億円で、そのうち原材料の仕入支出が約24億円です。これらの費用を重量比で計算すると1枚当たりのコストはおよそ次の通りとなります。

日本の硬貨の製造原価(推計)

硬貨 2018年度発行枚数 1枚当たりの製造原価
1円玉 44万枚 約3.1円
5円玉 1796万枚 約10.1円
10円玉 1億7896万枚 約12.9円
50円玉 5696万枚 約12.1円
100円玉 5億6796万枚 約14.6円
500円玉 2億8619万枚 約19.9円
合計 11億0847万枚 -

この試算では原料費と製造費を合わせた原価は1円玉が約3円、500円玉が約20円です。つまり1円玉の製造コストは1円以上かかっており、1円玉は発行すれば発行するほど赤字になるのです。

【参考】造幣局:「現在製造している貨幣」詳しくはこちら
【参考】日刊市況通信社:「アルミ指標相場・スクラップ価格推移」詳しくはこちら
【参考】造幣局:「年銘別貨幣製造枚数 平成30年度」詳しくはこちら
【参考】造幣局:「造幣局平成30年度予算」詳しくはこちら

日本の紙幣の原価

日本の紙幣の原価

日本の紙幣「日本銀行券」は、政府ではなく中央銀行の「日本銀行」が発行しており、印刷も造幣局ではなく東京・港区本局の独立行政法人国立印刷局が行っています。紙幣の製造コストも公表されていません。

2018年の「日本銀行券」の発行枚数はトータル30億枚で、うち1万円札が12億枚、5000円札が2億3000万枚、1000円札が15億7000万枚となっています。紙幣の原価は、紙幣の流通を一元管理する日本銀行が印刷局から買い上げる時の価格ということになりますが、2018年度の日本銀行の決算書によれば経費の「銀行券製造費」は519億8576万2000円です。
ここから試算すると1万円札、5000円札、1000円札とも約17円で、硬貨に比べれば紙幣の原価は額面に対して極めて低い割合となります。

【参考】財務省:「平成30年度 日本銀行券製造枚数」詳しくはこちら

日本の偽造防止技術は世界トップクラス

日本の偽造防止技術は世界トップクラス

ちなみに、日本の貨幣に使われている偽造防止技術は世界トップクラスです。

警察庁の発表によると2018年に国内で発見された日本円の偽札は合計で1698枚、500円硬貨は535枚。また、日本銀行の広報紙「にちぎんNo.27」によると2009年とやや古いデータですが日本の紙幣の流通量に対する偽札の発生割合に比べて、ヨーロッパは210倍、アメリカは333倍、イギリスにいたっては690倍と日本円に比べて極めて高い水準となっています。

日本円紙幣は和紙の原料を使った丈夫な紙に、色が細かく変化して見えるインクなど高度な偽造防止技術がいくつも施されていることが偽造の少ない要因と言われています。

硬貨にも同様に偽造防止の高度な技術が使われています。500円玉には硬貨の側面に斜めの溝を刻む「斜めギザ」の技術が大量生産型貨幣では世界で初めて採用されています。他にも、髪の毛よりも細い線模様やミクロの点を刻む最先端技術の「微細線加工」「微細点加工」も使われています。

【参考】財務省:「平成30年度 日本銀行券製造枚数」詳しくはこちら
【参考】警察庁:「偽造通貨の発見枚数」詳しくはこちら
【参考】造幣局:「貨幣の偽造防止技術」詳しくはこちら
【参考】日本銀行:「にちぎんNo.27」詳しくはこちら

世界のお金の原価

世界のお金の原価

国際間取引の決済通貨や基軸通貨として世界で最も多く利用されている通貨は米国のドルで、米国の中央銀行にあたる連邦準備理事会(Federal Reserve Board、通称FRB)によって発券管理されています。FRBは印刷費用詳細を公開しており、詳細は次の通りです。

米ドルの原価(FRB公表額)

公表原価
1ドル札(約110円) 5.5セント(約6円)
2ドル札(約220円) 5.5セント(約6円)
5ドル札(約550円) 11.4セント(約12.5円)
10ドル札(約1100円) 11.1セント(約12.2円)
20ドル札(約2200円) 11.5セント(約12.7円)
50ドル札(約5500円) 11.5セント(約12.7円)
100ドル札(約1万1000円) 14.2セント(約15.6円)

1ドルは100セント
1ドル=110円で換算(2019年10月)

ちなみにユーロの場合、紙幣は欧州中央銀行(European Central Bank、ECB)が発券し、硬貨8種類はECBの管理のもと加盟各国が製造しています。これら硬貨のうち1セント、2セント、5セントが銅メッキをほどこした鋼鉄製で、10セントから2ユーロまでの他6種類は銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケルなどの合金で作られています。小額硬貨のコストはユーロ圏でも懸案となっており、欧州委員会は1セントと2セント硬貨の製造コストが額面の価格を上回るため、廃止によって各国の経費を削減できるとの見方をしています。

【参考】FRB:「ドルを製造するのにかかるコストは」(英語)詳しくはこちら
【参考】ECB:「ユーロ硬貨各国共通事項」(英語)詳しくはこちら

信用貨幣について

信用貨幣について

現代社会で流通するお金はほぼすべて「信用通貨」「信用貨幣」と呼ばれるものです。
この信用貨幣とは、金貨や銀貨などそれ自体に価値を持たせた「本位貨幣」に対する言葉で、「信用」に基づいて、紙などを使って作られた貨幣のことを指します。

1万円札自体は紙で作られており、高級紙といえどもそれ自体には20円程度の価値しかありません。しかし、1万円相当の取引で支払いの際に、買い手と売り手の両方が「1万円札」に相応の価値があると認めて信じていれば、この1万円札のやりとりで取引が成立します。これが1万円札を「お金」として成立させている相互の「信用」です。

最初に通貨の役割を果たしたのは、そのまま使うこともできる家畜や穀物、金属などの「物品貨幣」でした。この物品貨幣のうち、保存や運搬などに便利な金属が主に使われるようになり、まずは「鋳造貨幣」が作られました。その金属製貨幣の「預かり証」が紙幣のルーツです。重たい金属の貨幣を運ぶ労力をかける代わりに「預かり証」が発行され、次第に貨幣と同等のものとして流通するようになりました。

そして、20世紀になって台頭したのが「不換紙幣」です。不換紙幣は価値を有する金貨や銀貨との兌換(交換)が保証されていなかったため、このように呼ばれています。19世紀までは各国が金の保有量に従って金と引き換えが可能な紙幣を発行していましたが、1929年の世界恐慌をきっかけに不換紙幣に置き換わり始め、最後まで金との交換を保証していた米ドルも1970年代に取りやめています。
現在の先進国はほぼ不換紙幣を採用していて、通貨供給量を調整したり経済政策を行ったりする「管理通貨制度」によって通貨の価値への信用を維持しています。

信用維持のために法律で貨幣を規定することも広く行われており、日本の場合は日本銀行法第46条第2項で「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」と定められています。つまり、債務者が支払い時に銀行券を使った場合は、債権者は受け取りを拒否できないという強制通用力を持っています。

まとめ

今回の記事ではお金の「原価」について詳しく解説しました。また、現代の金融制度を支える信用貨幣の制度が長い年月のなかで必要性に応じて出来上がった仕組みであることも併せてお分かりいただけたと思います。「貨幣の原価を公表しても問題ないのでは?」と思った方もいるかもしれませんが、すべては貨幣の価値と信用を維持するための施策の一環として行われているのです。

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