日本の会社員はこんなに優遇されている!

近年、若い世代を中心に「経済的に自立して早期リタイアを目指す」というムーブメントが生まれていますが、日本の会社員は社会保障制度によってかなり優遇されています。今回は、「圧倒的に会社員が優遇されている日本の社会保障制度」について言及したいと思います。

日本の会社員はこんなに優遇されている!

「脱・会社員」を目指す前に知っておきたい社会保障制度について

連合の調査によると、2022年の春闘の定期昇給を含めた賃上げ率は2%を超えたようです。「新しい資本主義」で成長と分配の好循環を目指す岸田政権が3%超を求めていたこともありますが、コロナ禍でも自動車や電機業界などの大手企業を中心に賃上げムードが回復しつつある印象です。

その要因の1つとして、人材獲得競争が挙げられるように思います。米国では人手不足(労働市場の売り手市場)を背景に、人件費が高騰。IT大手のAmazonが社員の基本給の上限を2倍近くに引き上げ年間35万ドル(1ドル=120円で換算して約4200万円)としたのは記憶に新しいところです。結果、より良い待遇や高い賃金を求めたグレート・レジグネーション(Great Resignation、大量離職)が社会問題化しています。

さすがに日本でグレート・レジグネーションが起こるとは思いませんが、以前、この連載(コラムVol.107「FIRE」が教えてくれること)でも指摘したように、若い世代を中心にFIRE(Financial Independence, Retire Early)、つまり「経済的に自立して早期リタイアを目指す」というムーブメントも生まれています。先日FIRE関連の取材をした20代の会社員の方は、「労務の仕事をしていて、社内で出世頭と言われる先輩も大した給料をもらっていないことが判明し、会社員の限界を感じた」と話していました。それならもっと自由に生きた方がいい、と考える気持ちも分からないではありません。
 
昭和から平成の時代にかけては「新卒で入社した企業で定年まで勤め上げる」のが当たり前でしたが、今は個人の価値観だけでなく、働き方の選択肢も多様化しています。

そうした中で少々あまのじゃく的ではありますが、今回は敢えて、「圧倒的に会社員が優遇されている日本の社会保障制度」について言及したいと思います。「脱・会社員」を目指す方にとっても、これを知っていると知らないとでは独立後に向けての対策の仕方が違ってくると思うからです。

国民健康保険では受けられない「傷病手当金」

最近の動向で注目されるのが、健康保険の「傷病手当金」です。これは、会社員が病気やケガで長期間出社できなくなった場合に、欠勤4日目から最長1年6カ月、給料の3分の2相当額を支給してくれる制度。従来だと受給できる期間は「支給開始から1年6カ月を超えない範囲」とされており、例えば抗がん剤治療を受けながら体調がいい日は出社して業務をこなしている人などは、制度をフルに活用できない仕組みでした。そこで2022年1月からは「支給開始から制度の対象となる日を通算して1年6カ月」に改められ、体調と相談しながら前向きに仕事に取り組んでいる会社員にも使い勝手のいい制度になっています。

ちなみに、この制度の恩恵に与れるのは会社員や公務員だけで、自営業者やフリーランスは原則、国民健康保険から傷病手当金を受け取ることができません。

会社員と非会社員とで大きな格差がある「高額療養費」

健康保険関連では、「高額療養費」も会社員と非会社員とで大きな格差が見受けられます。高額療養費とは、保険診療の医療費の自己負担が月ごとに一定額を超えた場合、超えた分を払い戻してもらえる制度です。この月ごとの負担上限額は、年収500万円の人で約8万円、1000万円の人で約17万円に設定されています(70歳未満)。しかし、大企業に勤務する会社員だと、年収に関係なく、医療費の自己負担は月ごとに2万~3万円で収まっているのではないでしょうか。これは、会社の健康保険組合による高額療養費の補填(付加給付)があるためです。

会社員でなくなると傷病手当金や付加給付は受けられなくなりますから、同様の保障を継続するためには別途、民間の医療保険や就業不能保険に加入する必要が出てきます。

会社員優遇は健康保険だけではありません。業務上、または通勤途中に負ったケガや疾病については労災保険の適用も受けられます。

加えて、年金制度も非会社員は国民年金だけですが、会社員は「国民年金+厚生年金」の2階建て、勤務先によってはその上に3階部分の企業年金まで用意されています。保険料は天引きされますから「濡れ手で粟」というわけにはいきませんが、老後に向けて有利に資産形成しやすい状況にあるのは確かでしょう。

ここで注意したいのが、死亡保障の必要額に大きく関わってくる遺族年金です。会社員が亡くなった時には残された家族に対して、「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」の2階建てで平均月額約13万円(2020年度)が支給されています。とはいえ、こうした手厚い遺族保障が受け取れるのは、原則として厚生年金に25年(300カ月)以上加入していた人だけ。30代でFIREしたら2階建ての遺族年金はもらえなくなります。

会社員の大きな特権!失業給付金(基本手当)

もう1つ会社員ならではの大きな特権が、雇用保険の失業給付金(基本手当)です。ハローワークに出向いて失業認定を受け、月2回以上の求職活動をしていることが前提になりますが、自己都合退職であっても被保険者期間に応じて90~150日間、賃金日額の50~80%が指定口座に振り込まれます(2カ月の給付制限期間あり)。しかも、失業給付は非課税です。

上に挙げたのは会社員の優遇制度のほんの一部に過ぎません。会社を辞めるということは、こうした特権を手放すことを意味します。特に若いうちは「自分は大丈夫」と考えがちですが、天災や事故、不意の病、仕事の減少などの災いは予測不可能かつ誰の身にも起こり得るものです。仮に将来独立するとしたら、これらのリスクに備えた“プラスアルファの備え”を検討することもお忘れなく。

ご留意事項
  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。

RANKING

この記事もおすすめ