認知症の高齢者の財産管理方法とは?4つの方法のメリットやデメリットを解説

高齢者の財産管理方法には「法定後見制度」「任意後見制度」「家族信託」「財産管理委任契約」といった選択肢があります。認知症などで判断能力が低下した時、財産を適切に管理するためには、それぞれの特徴やメリット、デメリットを理解し、状況に応じた方法を選択することが大切です。

認知症の高齢者の財産管理方法とは?4つの方法のメリットやデメリットを解説

高齢者の財産管理が重要な理由

高齢者の財産管理が重要な理由

預貯金や不動産などの財産を持っている人が高齢である場合、認知症になってしまったり、死後の相続トラブルや銀行口座の凍結などが起きてしまったりするため、財産管理対策を検討することが重要です。
具体的にどのような状況で、どのような懸念が出てくるか理解したうえで、対策を考えていきましょう。

認知症によって財産の管理・処分や相続対策ができなくなるから

認知症を患ってしまうと、物忘れがひどくなったり、判断能力が低下したりするため、財産を適切に管理できなくなる恐れがあります。

例えば、銀行の暗証番号を忘れてしまい、口座内のお金を引き出せなくなるかもしれません。また、同じ商品を何度も買ってしまったり、必要のない高額なリフォーム契約を結んでしまったりする可能性もあります。

また、認知症になると不動産などの売却もできなくなるため、家族が財産の処分に困ってしまうかもしれません。加えて、認知症により意思能力がないと判断されると、遺言書や生前贈与なども無効となるため、相続対策もできなくなってしまいます。

年齢を重ねれば重ねるほど認知症のリスクは高まり、自分自身で財産を適切に管理するのが難しくなる可能性があるため、健在なうちに対策を検討しておくことが重要なのです。

詐欺などの被害に遭いやすくなるから

詐欺の手口は年々巧妙になっており、なかには高齢者をターゲットにしたものもあります。特に認知症によって判断能力が衰えると、詐欺によって多額の被害に遭うかもしれません。
代表的な詐欺の手口は、以下の通りです。

・親族や知人になりすまして金銭をだまし取る(オレオレ詐欺)
・医療費や税金などの還付金を支払うと偽って金銭を騙し取る(還付金詐欺)
・未払いの料金があるとメールやハガキで知らせて金銭を騙し取る(未払金詐欺)

警察庁によると、2023年(令和5年)における特殊詐欺の認知件数は19,033件、被害額は441.2億円でした。前年に比べると、認知件数は1,463件、被害額は70.4億円増加しています。
【参考】警察庁「特殊詐欺認知・検挙状況等について」詳しくはこちら

通常であれば怪しいと思う内容や異常に感じる請求額でも、認知症になってしまうと判断が難しくなります。お金の問題は身近な人でも相談しにくいこともあるので、周囲の人がどのように関わって把握するか、難しい問題です。

相続の際に親族トラブルにつながりやすいから

高齢者の財産を適切に管理していないと、相続が発生した時に家族間でトラブルが生じてしまいやすくなります。
例えば、亡くなった人(被相続人)が持っていた財産の全貌が分からないことで、遺産が公平に分割されていないのではないのかと、一部の相続人が疑念を抱くかもしれません。

また、生前に被相続人を世話していた親族とほかの親族とでトラブルになるケースもあります。
例えば「亡くなった父を世話していた娘が、父の預金口座にあるお金を使い込んだのではないか」とほかの親族から疑われて争いに発展することもあるのです。

相続が発生した時、遺産の相続権がある親族間の信頼関係が損なわれてトラブルにならないようにするためにも、高齢者の財産は適切に管理することが重要です。

本人の銀行口座が凍結されてしまうことがあるから

銀行の預金口座からお金を引き出せるのは、原則として口座の名義人のみです。口座名義人の意思が確認できないのであれば、たとえ配偶者や子供でもあっても口座のお金を引き出すことはできません。

一方で認知症によって判断能力が大幅に低下してしまうと、名義人による口座の取り引きが金融機関によって制限されることがあります。
認知症になったとしても、名義人以外の人物が口座からお金を引き出すことは難しいのが実情です。本人の預金が使い込まれるリスクがあるためです。

口座の取り引きが制限されたとしても、公共料金の口座引き落としや年金の振込は継続されるのが一般的です。そのため、生活費や医療費、介護費用などを支払うための資金を引き出せず、親族が負担しなければならなくなるかもしれません。

認知症になった時の財産管理の4つの方法

認知症になった時の財産管理の4つの方法

高齢で財産管理が不安な場合や認知症になってしまった場合には、本人に代わって財産を管理できる制度があります。制度によって利用条件や利用方法が異なるため、状況に応じて財産管理の方法を検討していきましょう。

4つの財産管理方法の比較表

          本人の判断能力の有無 利用方法 法的な監督機関の定め
法定後見制度 不要 家庭裁判所に申請 家庭裁判所
任意後見制度 必要 公正証書で契約 任意後見監督人
家族信託 必要 当事者間で契約(私文書でも可) なし
財産管理等委任契約 必要 当事者間で契約(私文書でも可) なし

以降では、それぞれの管理方法の特徴やメリット、デメリットを紹介します。

1.法定後見制度(成年後見制度):判断力が欠く状態

1.法定後見制度(成年後見制度):判断力が欠く状態

法定後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が欠いた状態になった後に、財産管理の後見人を家庭裁判所が選任する制度です。後述する任意後見制度と同じく、成年後見制度の一種です。

法定後見制度では、障害や認知証などで低下した判断能力の度合いに応じて以下3つの類型から適切なものが選択されます。

判断能力低下の程度
後見 精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く状況
補佐 精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分
補助 精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分

【参考】厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」詳しくはこちら

後見は、重要な取引行為に加え、日常の買い物や身の回りのこともできない人に適用される類型です。
後見の対象になった人(被後見人)を支援する後見人には、本人に代わって契約などの法律行為ができる「代理権」と、被後見人の法律行為を取り消せる「取消権」があります。

保佐は、判断能力が低下したことで、日常の買い物や身の回りのことはできるものの、重要な取引行為などは一人で行えない状態の人に適用されるものです。
支援を担当する保佐人には、取消権のほかにも不動産の売買や遺産分割協議など被保佐人が行った法律行為※を有効にする「同意権」があります。また、家庭裁判所の審判で定められた法律行為を、被保佐人に変わって行う代理権を付与することも可能です。
※民法第13条第1項に定める行為に限る

補助は、日常の買い物や身の回りのことは一人でできるものの、重要な取引には不安が残る人に適用される類型です。支援をする補助人は、家庭裁判所が決定した行為についての同意権と取消権があります。

成年後見人や保佐人、補助人(以下、成年後見人など)になれるのは以下の通りで、家庭裁判所によって決定されます。

・親族
・専門的な研修を受けた地域の人(市民後見人)
・社会福祉士や司法書士、弁護士などの専門家
・福祉関係の法人
【参考】厚生労働省「成年後見制度」詳しくはこちら

法定後見制度の主なメリット

法定後見制度のメリットは、認知症や障害などで本人の判断能力が欠く状態になった後でも利用できることです。
成年後見人などに選ばれた人は、預金口座からの引き出しや不動産の売却、入院・手術の意思決定など、さまざまな面で本人をサポートします。
また、法定後見制度は、判断能力を欠く人が行った行為を、成年後見人などが一定の範囲で取り消すことができます(取消権)。取り消せる行為の範囲は、次の通りです。

取り消せる行為の範囲
後見 原則としてすべての法律行為
保佐 不動産の売買や借金など民法第13条第1項に定める行為
補助 申立てにより裁判所が定める行為

被後見人が、詐欺の被害に遭ったり、不適切な契約・出費をしたりしても、成年後見人はその行為を取り消すことができるため、事後に対処がしやすくなります。

法定後見制度の主なデメリット

法定後見制度の主なデメリットは、柔軟に財産を管理できなくなることです。
法定後見制度を利用すると、被後見人が持っている財産は保全の対象となるため、本人や家族などが自由に処分したり活用したりできなくなります。株式投資や不動産投資などのリスクがある行為は、基本的に認められません。

また、成年後見人などになれるのは、家庭裁判所が選任した人であり、自分自身で自由に選べるわけではありません。
特に、高額な財産を持っている人の成年後見人などは、親族による横領を防ぐために、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれる可能性が高いです。第三者に家族の財産管理を任せることに抵抗を感じる方も少なくないでしょう。

また、専門家が成年後見人などになる場合、毎月2万〜6万円ほどの費用がかかります。

2.任意後見制度:判断力がある状態

2.任意後見制度:判断力がある状態

任意後見制度とは、判断能力が不十分となった人の人が所有する財産の管理を、契約で定められた任意後見人に委託する制度のことです。
判断能力があるうちに本人自身で財産管理の後見人を指名し、公正証書によって法的契約を結びます。

また、後見人の業務を監督するために、家庭裁判所によって任意後見監督人が選ばれます。
任意後見人には代理権が与えられるため、判断能力がなくなった本人の代わりに契約締結などの法律行為ができます。任意後見人が代わりにできる行為は、任意後見契約を結ぶ時に決めます。

財産の管理や本人の利益の保護が開始されるのは、本人の判断能力が低下してからですが、本人の意向を反映させやすい制度といえるでしょう。

任意後見制度の主なメリット

任意後見制度の主なメリットは、自分自身の意思で任意後見人を選べることです。
法定後見制度の法定後見人は、弁護士や司法書士などが選任されるケースも多々ありますが、任意後見制度であれば子供や孫など信頼のおける人を後見人に指定することが可能です。

また、任意後見人に依頼したい内容をある程度自由に決めることが可能です。預貯金や不動産などの管理だけでなく、医療・介護サービスの選択や手続きなど、本人の状態やニーズに応じたさまざまな行為を任せることができます。

任意後見制度の主なデメリット

任意後見制度の主なデメリットは、法定後見制度には存在する取消権がないことです。
そのため、判断能力のない人が自身にとって不利な契約を結んでしまったとしても、任意後見人はそれを取り消すことができません。

加えて、任意後見監督人に対する報酬を支払う必要がある点も負担となるでしょう。任意後見監督人に選ばれるのは、原則として弁護士や司法書士などの専門家です。
任意後見監督人の設置を省くことはできず、無報酬とすることもできないため、一定のランニングコストがかかります。

3.家族信託:財産の活用の自由度が高い方法

3.家族信託:財産の活用の自由度が高い方法

家族信託は、判断力があるうちに自分の財産を信頼できる家族などに託し、特定の目的での管理・運用を任せる方法です。家族信託は、民事信託ともいわれます。

家族信託に関係する人物は、以下の通りです。

・委託者(本人):財産を預ける人
・受託者:本人に代わって財産を預かり管理・運用する人
・受益者:受託者に預けた資産(信託財産)から生じた利益を受け取る人

認知症対策として家族信託を活用する場合、委託者と受益者は同一人物、受託者は信頼できる家族などになるのが一般的です。

家族信託の主なメリット

家族信託のメリットは、委託者となる人が元気なうちに財産の管理や運用に関する信託内容を自由に決められることです。
法定後見制度と任意後見制度は、どちらも家庭裁判所の監督下に置かれるため、本人の意思に沿って財産を管理・処分できるとは限りません。

その点、家族信託であれば家庭裁判所が介入しないため、本人や家族の意思をもとに決めた信託内容に沿って財産を管理・処分・運用がしやすいのです。

また、家族信託には受託者が亡くなった後に信託財産を引き継ぐ人を指定できるという遺言と同様の機能もあります。
さらには、遺言ではできない複数世代に渡る財産を承継する人の指定も可能であり、相続対策において幅広く活用できます。

家族信託の主なデメリット

家族信託の主なデメリットは、家族に託せる内容が財産管理に関する事項のみに限られることです。
介護施設に入居する契約や手術の同意、入院の手続きなど、療養看護に関わる行為を、受託者が代行することはできません。
財産管理以外のことも本人以外の人物に代行してもらう場合は、法定後見制度や任意後見制度との併用が必要です。

また、認知症や障害などが進行して本人が判断能力を失ってしまうと、家族信託を設定することができなくなります。
家族信託を利用するのであれば、認知症などで判断能力が低下してしまう前に、信託内容を決めて契約を済ませておくことが大切です。

4.財産管理委任契約:認知症の場合には利用しにくい

4.財産管理委任契約:認知症の場合には利用しにくい

財産管理委任契約とは、事故や病気などで身体が不自由になり、財産を管理できなくなった場合に、信頼できる人物に管理を任せられる契約です。
本人の判断能力があるうちに第三者に財産管理を託すという点では、任意後見制度や家族信託と似た仕組みであるといえます。

一方で、任意後見制度では判断能力が低下した後、監督人が選任されてから財産管理が始まるのに対し、財産管理委任契約は能力低下の有無に関わらず、財産の管理などを任せることができます。加えて、財産管理委任契約には家庭裁判所による監督がありません。

財産管理委任契約の主なメリット

財産管理委任契約のメリットは、委任内容を当事者間で自由に決定することができる点です。財産の管理だけでなく、病院・介護施設などの入所手続きや、費用の支払いなど療養看護に関することも委任できます。

また財産管理委任契約は、本人の判断能力が低下する前から財産の管理を行うことができます。
家庭裁判所への申し立ても不要なので、判断能力はあるものの、病気やケガなどで身体が思うように動かなくなった場合にすぐに利用できます。

財産管理委任契約の主なデメリット

財産管理委任契約のデメリットは、法的な後ろ盾が乏しい点が挙げられます。
財産管理委任契約によって財産の管理を委任された人(受任者)が、委任者の預貯金口座からお金を引き出しをしたいと申し出ても、応じてくれない金融機関もあります。

また、財産管理委任契約では取消権が認められていません。財産管理を委任した人が詐欺などの被害にあったとしても受任者は契約の取り消しができないのです。
そのため、財産管理委任契約は認知症対策としては不安が残ることになります。

さらに、財産管理委任契約においては、財産を管理する受任者を監督する人がいません。そのため、委任者である財産所有者が認知症になり判断能力が低下した際、受任者に財産を使い込まれてしまうリスクもあります。

認知症に備えて財産管理を考えよう!

認知症に備えて財産管理を考えよう!

認知症になってしまったり、死後の相続トラブルや銀行口座の凍結などが起きてしまったりするため、高齢者の財産管理は重要です。
財産管理の方法には、法定後見制度・任意後見制度・家族信託・財産管理委任契約があります。認知症により判断能力が低下してしまうと、財産を適切に管理するための選択肢としては法定後見制度のみとなってしまいます。
本人や家族のためにも、財産管理の対策は健在なうちに済ませておくのがベストです。金融機関や弁護士などにも相談し、本人や家族の意向に適した制度の利用を検討することをおすすめします。

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