退職所得申告書とは?各欄の書き方や退職所得控除・税制優遇を理解しよう
退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)は、退職金などを受け取る人が支払先に提出する書類です。今回は、退職所得申告書の各欄の書き方や注意点を解説します。退職所得申告書を期限内に提出して、退職所得控除や税制優遇を受けることで税負担を軽減させましょう。
目次
退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)とは?
「退職所得の受給に関する申告書(以下、退職所得申告書)」は、退職金やiDeCoの老齢給付金の一時金など(以下、退職手当等)の支給を受ける人が、支払者に提出する書類のことです。
退職が近づくと勤務先から配布されるほか、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。
退職所得申告書に、氏名や住所、勤続期間などの必要事項を記入して勤務先に提出すると、退職金から所得税や復興特別所得税※が源泉徴収されます。
※2013年1月1日から2037年12月31日までの間に支払いを受ける退職手当等が対象
また、退職所得申告書を提出していれば、退職手当等にかかる税金を計算する際に、支給される金額から「退職所得控除」が差し引かれます。さらに課税の対象となるのは、控除したあとの金額の2分の1となるため、税負担が大幅に軽減することが可能です。
退職金やiDeCoの老齢給付金などを受け取る時は、退職所得申告書を正確に記入し、期限までに提出をすることが大切です。
退職所得申告書の書き方
まず、退職所得申告書の上部に退職手当等を受け取った年度を、右上部に住所、氏名、個人番号(12桁のマイナンバー)、受け取った年の1月1日現在の住所を記載します。
その他の記載箇所は、大きく分けてA〜E欄があります。それぞれの記入方法をみていきましょう。
なお、本記事では令和4年4月1日以後の退職手当等に関わる退職所得申告書の書き方をご紹介します。将来的に申告書のフォーマットが変更される可能性もあるため、記入の際は申告書に記載されている書き方も参考にしてください。
A欄:すべての人が記入する
退職所得申告書のA欄には、退職した日や退職理由、退職金の支払先に勤めていた期間を記入します。この欄には、すべての人が記入をしなければなりません。
①:退職手当等の支払いを受けることになった年月日
退職年月日を記入します。
②:退職の区分等
退職した理由について、該当するものに〇を付けます。
<一般・障害の区分>には、定年退職をする場合や転職などで自己都合退職をする場合は「一般」に〇を付けましょう。
「障害」に〇を付けるのは、在職中に生じた障害が直接の原因で退職する場合です。それ以外の場合は、すべて一般に該当します。
<生活扶助の有無>には、退職する年の1月1日時点で、生活保護法により生活扶助を受けている場合には「有」に、受けていない場合は「無」に〇を付けます。
③:この申告書の提出先から受ける退職手当等についての勤続期間
この欄には、退職金を受け取った勤務先に勤め始めた日(入社日)や退職日、勤続年数を記載します。
入社日は「自」と書かれている欄に、退職日は「至」の欄に記入します。「年」と記載がある欄には、勤続年数を年単位で記載します。1年に満たない部分は切り上げるため、例えば勤続期間が25年4ヶ月である場合は26年と記載をします。
また、申告書には勤続年数のうち「特定役員等勤続期間」と「短期勤続期間」の有無や内訳も記載をしなければなりません。
特定役員等勤続期間とは、以下のいずれかの勤続年数が5年以下である人に支払われた退職手当等(特定役員退職手当等)などにかかる期間のことです。
・法人税法第2条第15号に規定する役員(法人の取締役、執行役、理事、会計参与など)
・国会議員や地方公共団体の議会の議員
・国家公務員や地方公務員
短期勤続期間とは、上記以外で勤めた期間が5年以下である人に支払われた退職手当等(短期退職手当等)にかかる期間のことです。
特定役員等勤続期間は「一般勤続期間」と「短期勤続期間」との重複期間も記入する必要があります。一般勤続期間とは、特定役員退職手当等および短期退職手当等のいずれにも該当しない退職手当等にかかる期間のことです。
B欄:本年中にほかの退職手当等を受け取った場合に記載
B欄は、退職金を受け取った年に、ほかの所属先などから退職金を受け取っている場合に記入します。
④:本年中に支払いを受けたほかの退職手当等についての勤続期間
同じ年に支払われたほかの退職手当等の所属先での勤続期間を記載します。先に支払われた退職手当等の源泉徴収票または特別徴収票に記載されている勤続期間を転記するとよいでしょう。
⑤:③と④の通算勤続期間
③と④を通算した勤続期間を記載します。重複している部分がある場合は、二重に計算しないように注意しましょう。通算した勤続期間のうち、1年未満の端数は切り上げます。
また、③と同様に「特定役員等勤続期間」と「短期勤続期間」の有無と内訳も記載します。
特定役員等勤続期間は「一般勤続期間」や「短期勤続期間」との重複期間を記載します。ただし、特定役員等勤続期間、短期勤続期間、一般勤続期間のすべてが重なっている期間(全重複勤続期間)は除きます。全重複勤続期間は、⑤の欄にある「うち 全重複勤続期間」に別途記載します。
C欄:前年以前4年内(または19年内)に退職手当等を受け取った場合に記載
C欄は、前年以前から4年以内に退職手当を受け取っている場合に記載します。
⑥:前年以前4年内の退職手当等についての勤続期間
この欄には、前年以前4年内に支払われた退職手当等にかかる勤続期間を記載します。ただし、iDeCoの老齢給付金など、確定拠出年金の加入者に支給される一時金を受け取る場合には、前年以前19年内の退職手当等にかかる勤続期間(加入期間)を記載する点に注意が必要です。
また、前年以前4年内(または19年)に受け取った退職手当等が、後述する退職所得控除額を下回る時は、勤続期間の初日から以下の計算式で求められる数字を勤続期間として記載します。(小数点以下は切り捨て)
4年内の退職手当等の収入金額 | 計算式 |
---|---|
800万円以下の場合 | 収入金額÷40万円 |
800万円を超える場合 | (収入金額−800万円)÷70万円+20 |
例えば、退職手当等の収入金額が550万円である場合、勤続期間は「550万円÷40万円=13年(端数切り捨て)」となります。
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⑦:③又は⑤の勤続期間
この欄には、A欄の③またはB欄の⑤に記載した勤続期間のうち、⑥の勤続期間と重複している期間を記載します。
また、③または⑤の欄に記載した「特定役員等勤続期間」や「短期勤続期間」と重複する期間の有無に〇を付けます。重複期間がある場合は、期間の初日と最後の日、および勤続年数を記載しましょう。なお、勤続期間は1年未満の端数を切り捨てる点に注意が必要です。
D欄:A欄・B欄の勤続期間で前に受け取った退職手当等を通算している場合に記入
D欄には、A欄やB欄に記載した勤続期間に含めた前の退職手当等にかかる勤続期間とその年数を記載します。年数は、1年未満の端数を切り捨てます。
⑧・⑨:A・Bの退職手当等についての勤続期間に通算された前の退職手当等についての勤続期間
A欄の③やB欄の④に記載した勤続期間に含めた前の退職手当等についての勤続期間とその年数を記載します。年数は、1年未満の端数を切り捨てます。
また、A欄の③やB欄の④に含めた勤続期間について、特定役員等勤続期間や短期勤続期間の有無や重複期間、年数(1年未満の端数切り捨て)も記載しましょう。
⑩:③又は⑤の勤続期間のうち、⑧又は⑨の勤続期間だけからなる部分の期間
③や⑤に記載した勤続期間のうち、⑧または⑨の勤続期間のみにあたる部分とその年数(1年未満の端数切り捨て)を記載します。ハや二の欄には、その勤続期間のうち特定役員等勤続期間や短期勤続期間の有無や重複する期間、年数(1年未満の端数切り捨て)を記載します。
⑪:⑦と⑩の通算期間
⑦と⑩を通算した期間を記載する欄です。重複する部分がある場合は、二重に計算しないように注意が必要です。年数は、1年未満の端数を切り捨てます。
ホの欄にはイとハ、ヘの欄にはロと二を通算した期間と年数(1年未満の端数切り捨て)を記載します。
E欄:B欄またはC欄に記載した退職手当等がある場合
E欄は、B欄やC欄に記載した退職手当等などがある場合に記載します。退職所得の源泉徴収票や特別徴収票をもとに、受取日や収入金額、源泉徴収税額などを記載しましょう。
【参考】「申告書の書き方」詳しくはこちら
退職所得申告書の提出方法
退職所得申告書は、退職手当等の種類によって提出先が異なります。退職所得申告書の提出時期や必要書類も確認しておきましょう。
退職所得申告書の提出先
退職所得申告書は、退職手当等を支払う企業や団体に提出します。
例えば、定年退職で退職金を受け取る場合、退職所得申告書の提出先は勤務先です。
iDeCoの場合、老齢給付金を受け取れる年齢に達し、掛金を拠出する加入者でなくなると、口座を開設している金融機関が提携する記録関連運営管理機関から請求書類が送付されてきます。
請求種類の中に退職所得申告書も同封されているため、ほかの書類とあわせて記入をし、添付書類とともに記録関連運営管理機関に返送しましょう。
なお、提出された退職所得申告書は、支払先で保管されます。税務署から特別の請求があった場合を除き、申告書を税務署に提出する必要はありません。
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退職所得申告書の提出期限
退職所得申告書は、退職手当等が支払われる前に提出をしなければなりません。退職手当等の支払者は、退職所得申告書を受け取らなければ税金を源泉徴収をしたうえで支払ができないためです。
そのため、遅くとも退職手当等が支払われる前日までは提出を済ませておきましょう。詳細な提出期限については、退職手当等の支払者に確認することが大切です。
退職所得申告書に添付する必要書類
同じ年にほかの退職手当等を受け取っている場合は、その退職手当等についての「退職所得の源泉徴収票」を添付しましょう。
また、退職所得申告書のA欄で「障害」に〇を付けた人は「障害者手帳のコピー」を添付し、生活扶助の有無で「有」に〇を付けた場合は「生活保護決定通知書のコピー」を添付します。
退職所得の受給に関する申告書を提出しないと税負担が重くなる
退職手当等が支払われる前までに、退職所得申請書を勤務先に提出しなかった場合は、課税額が大きくなってしまうことがあります。退職所得控除が受けられなくなることに加え、支給額のすべてが課税の対象になるためです。
退職所得申告書を提出すると退職所得控除を受けられる
退職所得申請書を提出した場合は、以下の計算式で退職所得の金額が算出されます。
(収入金額(源泉徴収される前の金額)−退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
退職所得控除の金額は、以下の計算式で求めます。
退職所得控除額の計算方法
勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合は、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A - 20年) |
【参考】国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき」詳しくはこちら
退職所得から源泉徴収される所得税や復興特別所得税は、以下の計算式で算出されます。
退職所得の源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) | 税額=[(A)×(B)-(C)]× 102.1% |
---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 | [(A)× 5%]× 102.1% |
195万円超 330万円以下 |
10% | 97,500円 | [(A)× 10% - 97,500円]× 102.1% |
330万円超 695万円以下 |
20% | 427,500円 | [(A)× 20% - 427,500円]× 102.1% |
695万円超 900万円以下 |
23% | 636,000円 | [(A)× 23% - 636,000円]× 102.1% |
900円万超 1,800万円以下 |
33% | 1,536,000円 | [(A)× 33% - 1,536,000円]× 102.1% |
1,800万円超 4,000万円以下 |
40% | 2,796,000円 | [(A)× 40% - 2,796,000円]× 102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | [(A)× 45% - 4,796,000円]× 102.1% |
【参考】国税庁「別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表」詳しくはこちら
このように、退職所得申告書を提出すると、受け取った退職所得から退職所得控除が差し引かれ、さらにその2分の1のみが課税の対象となります。さらには、ほかの所得とは分けて税額が計算されるため、大幅に税負担が軽くなります。
退職所得申告書を提出し忘れたら確定申告をする
退職所得申請書を提出しなかった場合は、一律20.42%が源泉徴収されます。退職所得控除は受けられず、受取額の全額に約20%の税金がかかるため、退職所得申告書を提出しなかった時よりも税負担は重くなることがあります。
万が一提出し忘れてしまった場合や事情により提出が間に合わなかった場合は、確定申告をしましょう。確定申告をすると、源泉徴収された金額よりも退職所得控除が適用されたあとの税額の方が低い場合、差額を還付してもらえます。
確定申告の期限は、退職手当等を受け取った翌年の原則として2月16日から3月15日までです(土日によって前後します)。申告の際は確定申告書を作成し、マイナンバーカードなどの書類を添付して税務署に提出をします。
退職所得申告書を提出し忘れてしまった場合、最寄りの税務署や国税庁のホームページなどで必要書類を確認し、期限までに確定申告の手続きをするとよいでしょう。
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退職所得申請書の提出時に注意が必要な人は?
なお、以下に該当する人は退職所得の受給に関する申請書を提出するにあたって、源泉徴収額の計算方法が通常とは異なるので、注意が必要です。
同じ年に2か所以上の勤務先から退職金の支給を受ける場合
その年中に、すでに別の企業などから退職金を支給されている場合は、新たに提出する退職所得申告書のB欄を記入して申告しなければなりません。また、その支払済の退職金に関する「退職所得の源泉徴収票」の添付も必要です。
なお、複数の支払者に同時に申告書を提出する場合には、申告書にその提出の順位を記載することとされています。
その年中にほかの支払者から支払済の退職金について記載した「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、支払済のほかの退職金と今回の退職金の額を合計した額が「退職所得の収入金額」とされ、これに基づいて源泉徴収額が計算されることになります。
この計算方法は国税庁のホームページで確認できますが、非常に煩雑なので、勤務先の担当者や税理士に相談するとよいでしょう。
【参考】国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」詳しくはこちら
役員等勤続年数が5年以下の人が、その勤続年数に対応する退職金の支給を受ける場合
退職所得申告書を提出すると、退職手当等の受取額から退職所得控除を差し引いた残りの2分の1が退職所得として課税の対象となります。
ただし、特定役員退職手当等を受け取った場合、この2分の1課税は適用されません。受取額から退職所得控除を差し引いた残りの全額が退職所得となります。
まとめ
退職金を受け取る前に勤務先に「退職所得の受給に関する申請書」を提出しておくと、勤務先が退職手当等を支払う際に、適切に退職所得の金額が計算されたうえで所得税が源泉徴収されます。
また、退職所得申告書を提出していれば、退職所得控除が受けられるうえ、課税の対象となるのは、控除したあとの金額の2分の1となるため、税負担が大幅に軽減することが可能です。
しかし、提出を怠ると退職所得の金額に関わらず、一律20.42%の所得税が課され、提出した場合に比べて多く所得税を支払わなければならない可能性があります。退職所得控除や2分の1課税を受けるためには確定申告が必要となるため、退職所得申告書は必ず期限内に提出しましょう。
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