データで個人と企業をつなぐ新たな架け橋に。2021年春、情報銀行サービス「Dprime」提供開始

世界的に個人情報保護の動きが加速する中、日本では個人が自身の個人情報の保護と利活用を両立できる「情報銀行」の整備が進んでいます。三菱UFJ信託銀行でも現在、独自の情報銀行サービス「Dprime」を開発、2021年3月にサービス開始を予定しています。

データで個人と企業をつなぐ新たな架け橋に。2021年春、情報銀行サービス「Dprime」提供開始

パーソナルデータの利活用を本人がコントロールできる「情報銀行」

パーソナルデータの利活用を本人がコントロールできる「情報銀行」

パーソナルデータにこれまでにない価値を生み出すDprimeの概要や今後の展望について同社経営企画部FinTech推進室の畑 茜(はた あかね)調査役に聞きました。

―そもそも、情報銀行とはどのようなサービスなのでしょうか?

:情報銀行とは、個人からパーソナルデータを預かり、本人の同意に基づいて企業などの第三者に提供、その対価を個人に還元するサービスのことを指します。情報銀行を活用すると、個人は自身のパーソナルデータをコントロールできるようになり、データを提供した企業などから対価を受け取ることも可能になります。

―情報銀行が生まれた背景には、どのような問題意識があったのでしょうか?

:インターネットやSNSを利用したりすると、そのサービスを運営する企業には、ユーザーの性別や年齢、居住地や購買履歴といったさまざまなパーソナルデータが収集されます。企業は収集したパーソナルデータを蓄積、分析することによって広告などのビジネスに活用し、収益を上げてきました。

しかし、近年になってGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される一部の巨大IT企業が膨大なパーソナルデータを独占的に収集・利用して巨額の収益を得ていることへの批判が高まり、欧米を中心に「ユーザーの同意なしにパーソナルデータを第三者に利活用させるべきではない」「パーソナルデータのコントロール権を本人に委ねるべきだ」といった声が高まっています。これを受けて、各国で個人情報保護の観点からパーソナルデータの利活用に関する法律の見直しが進んでいます。

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EUでは2018年から個人情報保護規則の「GDPR」が運用されている

:例えば、EUでは2018年5月、企業などがユーザー本人の同意なくパーソナルデータを収集することを禁じる「GDPR(一般データ保護規則)」の運用が始まり、違反した企業には巨額の罰金が課されることになりました。また、カリフォルニア州では2020年7月、州内に住む人に対して、企業が保有する個人情報の開示や消去、第三者への販売禁止などを請求できる権利を与えるCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が制定され、同州の住民のデータを収集する企業には収集するデータに関する通知義務が課されました。
こういった動きはグローバルな潮流となりつつあり、日本でも政府主導で議論が行われ、その結果、日本独自のパーソナルデータの管理・利活用の仕組みとして提唱されたのが情報銀行なのです。

―2020年現在、情報銀行はどの程度普及しているのでしょうか?

:いくつかの企業がすでにサービスを開始していますが、まだ一般に広く普及しているとは言えない状況だと思います。しかし、日本でも2020年6月に改正個人情報保護法が成立するなど、パーソナルデータの保護や管理、商用利用について注目が集まっていることなどから、情報銀行へのニーズは今後、伸びていくものと考えられます。実際、幅広い業種において情報銀行ビジネスへの参入が検討されています。私たち銀行業においても、2020年の銀行法改正で情報銀行ビジネスへの参入が可能となりました。

個人ユーザーとデータ利用企業の継続的な関係構築が可能に

個人ユーザーとデータ利用企業の継続的な関係構築が可能に

―三菱UFJ信託銀行でも情報銀行プラットフォーム「Dprime」のサービス開始を予定しています。Dprimeのしくみを教えてください。

:Dprimeは個人ユーザーの皆様が、ご自身のパーソナルデータを弊社による厳正な審査を通過した企業に提供することで、対価を受け取ることができるアプリケーションです。

Dprimeをご利用いただくには、まず専用のアプリをスマートフォンなどにダウンロードし、ご自身のパーソナルデータをDprimeに集約します。Dprimeは集約されたデータを厳重に管理します。そして、データを利用したい企業は、個人ユーザーにデータ提供のオファーをします。ユーザーはそのオファーの内容を確認した上で提供の可否をご自身で決めることができます。
データはユーザーが提供を応諾した場合のみ、個人が特定されない形でオファー元の企業に提供され、ユーザーはデータ提供の対価として自身の趣味嗜好に合った新しい体験や商品・サービスなどを受け取ることができます。

2021年3月のリリース時の提供データは「本人情報」「生活・趣味・趣向」「資産状況」「行動履歴」の4種類を予定しており、運転免許証などによる本人確認を行った個人ユーザーのデータのみが提供されます。

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Dprimeの仕組み

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提供予定のパーソナルデータ(順次追加予定)

―他の情報銀行サービスにはない、Dprimeの特徴、強みは何でしょうか?

:最大の特徴は、単なるマーケティング目的のデータ仲介ではなく、個人ユーザーとデータ利用企業を繋ぐことで、双方に新たな気づきを生む「架け橋」としての機能を持っていることだと考えています。

Dprimeでは企業側からのオファーを提示する際に、データ提供を求めている企業の名称も個人ユーザーに明示することとしており、個人ユーザーは企業名を知った上で、自身のパーソナルデータを提供するかどうかを判断することができます。パーソナルデータの提供を応諾したユーザーは、その企業に好感を持っている可能性が高いはず。つまり、データ利用企業側はDprimeを介して個人ユーザーからパーソナルデータの提供を受けることによって、自社に好意的な複数の個人ユーザーと直接的な繋がりを持つことができるということです。

さらに、データ利用企業はその複数の個人ユーザーに対して何度でも「アンケートオファー」を出すことができます。アンケートオファーの内容はその都度企業が自由に設定できるので、例えば、新商品についてのアンケート調査や新サービスのモニター募集などを行うことで、VOC戦略(お客様の声を活用したマーケティング戦略)のためのパネルとしてDprimeを活用することも可能です。
このようにして自社に好意的な母集団と中長期にわたってコミュニケーションを継続すれば、新たなニーズやビジネスチャンスへの気付きが得られる可能性があります。
一方、個人ユーザーには、データ利用企業とのコミュニケーションを通じて新たな価値観に気付いたり、企業活動への参加体験を得られるなど、単なる経済的対価に留まらないメリットがあります。

信託銀行業務で培ったノウハウを情報銀行に応用

―三菱UFJ信託銀行が運営する情報銀行であることは、個人ユーザーにとってどんなメリットがありますか?

:まずは、大切な資産であるパーソナルデータを安心してお預けいただける点だと自負しています。というのも、信託銀行は、元来、株主名簿や年金加入者データを長きにわたり管理してきたため、パーソナルデータを管理・運用する情報銀行と業務内容における親和性が高く、これまで信託銀行で培ったデータ管理のノウハウを情報銀行の業務に応用することができるからです。

信託銀行が情報銀行サービスを手掛けることによって、個人の方にも安心・安全なサービスというイメージを持って頂くことができ、情報銀行自体の認知度や信用度が上がれば、情報銀行の普及に貢献できるのではないかと考えています。

Dprimeは2021年3月にサービス開始を予定していますが、2021年初から、公式ホームページなどをリリースし、パーソナルデータの利活用を自身でコントロールできることの意義をお伝えしていく予定です。そして三菱UFJ信託銀行は個人ユーザーと企業がDprimeのサービスを通じてコミュニケーションを深めるお手伝いができればと考えています。

今回お話を聞いた人

畑 茜さん

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