津村 記久子×三菱UFJ信託銀行「楽しみなこと、ひとつ」第3話 カフェラテの憂うつ(後)

芥川賞作家・津村記久子さんによるショートストーリー「楽しみなこと、ひとつ」(全10話)の第3話「カフェラテの憂うつ(後)」をお届けします。

津村 記久子×三菱UFJ信託銀行「楽しみなこと、ひとつ」第3話 カフェラテの憂うつ(後)

(C)津村記久子 シティリビング(東京版)9/13号

第3話 カフェラテの憂うつ(後)

「え、ありがとうございます」

「けっこうおいしかったんだけど、まだたくさんあるから。冷凍庫の氷出しといたし」

 朔美は給湯室にもらった抹茶ラテを淹れに行き、氷を入れてアイスにして飲む。16時台の甘い1杯は救われる感じがする。

 席に戻って松崎さんに、これっていくらなんですか? と聞くと、うちの近所のスーパーで10本入りで210円かなあ、と答えてくれる。私の朝のカフェラテは1杯でそれより高い。

 帰りに地元のスーパーの売場をのぞいてみよう、と考えながら、飯田課長に日報を出すと、課長のモニターに上がったり下がったりしているグラフの画像とともに、高値、急騰、下落、続落、上昇、という言葉が見えた。

「いつも見てるけど上がったり下がったりするこれ何ですか?」

「平均株価。確かに上がったり下がったりするね」

「下がっても上がるのが意外ですね」

「長い目で見守るとおもしろいよ」

 朔美は、おそらく上がったまま下がらないコーヒーの値段と、飯田課長の見ていた上がったり下がったりしているグラフのことを考えながら、職場のあるビルを出た。コーヒーショップの前に差しかかり、店先をちらりと見て、今日はいいやと駅に向かう。あ、340円浮いた、と思う。でも帰りのスーパーで粉末スティックの箱を買って帰るから同じ? いや少し違う。

 お金を浮かせるのはちょっと気持ちいい、と朔美は帰りの電車の中で考えていた。明日の帰りも、できれば朝もそうしたい。これから浮かせるお金、どうせなら上がったり下がったりするものにちょっとだけ使えないかな、と朔美は思いついた。でも下がりっぱなしだと落ち込むから、飯田課長が言ってたような感じのもの。
それでちょっとだけ見守れるもの。メダカを飼ってもおつりが出そうだったから。

Check!「上がったり下がったり」
多彩な金融商品の中には、ニュースでよく目にする日経平均株価の動きに連動するものも。値動きに焦りすぎないことがポイントです。

出典 

>第3話 いつかの菜の花畑(前)
<第2話 カフェラテの憂うつ(中)

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