津村 記久子×三菱UFJ信託銀行「楽しみなこと、ひとつ」第2話 カフェラテの憂うつ(中)

芥川賞作家・津村記久子さんによるショートストーリー「楽しみなこと、ひとつ」(全10話)の第2話「カフェラテの憂うつ(中)」をお届けします。

津村 記久子×三菱UFJ信託銀行「楽しみなこと、ひとつ」第2話 カフェラテの憂うつ(中)

(C)津村記久子 シティリビング(東京版)8/30号

第2話 カフェラテの憂うつ(中)

 結局朔美は、朝のコーヒーショップの行列に並んでいたせいで、始業開始に遅刻しそうになった。ぎりぎり間に合ったのは良かったけれども、片手に持った冷たいカフェラテのカップが不安で思い切り走れなかったのが悲しかった。手ぶらなら、あと2分早く席に着けたはず、という意味がないようでいて月に一度は立ち上がる問題に、朔美は午前中ずっととらわれていた。

 あと1本早い電車で出勤したらいいのかな?それはいやだ…、と思いながら、職場の先輩たちと昼食を食べた後、朔美は少し早くデスクに戻って、朝から気になっていた「ラテマネー」という言葉について検索してみた。ただ習慣になっているだけで毎朝買っているカフェラテのような、意識せずに使っているお金のことらしい。これが蓄積されると、1日300円の出費でも月間で20日だと6000円、1年だと72000円になるという。

 これ私のことかも…と朔美は軽く頭を抱えた。しかもあの店はこれから値上げするっていうし。朔美は計算機を叩いて、自分が年間にどのぐらいあの店のカフェラテに使っているのかを算出して少し驚き、でも完全にやめてしまうのもいやだな、と思う。週に1回は朝の1杯の冷たいカフェラテに救われることもある。

 仕事は特におろそかにはしていないものの、考え込んだまま16時になった。私はちょっとしたお金の浪費をしてるみたいだけど、浮いたお金で何をしたいっていうのもないし。強いて言えばメダカを飼いたいかな。ちょっとだけ見守るものがほしい。

 悩んでいるとカフェラテでも飲みたくなるのだが、それでは振り出しだと頭を横に振っていると、三石さん、という声がしたので顔を上げると、先輩の松崎さんがいて、飲み物の粉末スティックを差し出していた。

「これ、抹茶ラテなんだけど、新しいのが売られてたんだ。あげる」

Check!「見守れるもの」
長期間継続することが投資の大きなポイント。リスクとリターンは長期間でならされていくもの。下がったときも見守ることが大切です。

出典 

>第3話 カフェラテの憂うつ(後)
<第1話 カフェラテの憂うつ(前)

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